第123話 リヨンのお見舞い
「クロウ……? どうしたのよ?」
俺が部屋に入ると、ベッドに横になったリヨンが俺に視線を向けてきた。
しかしその視線は何とも弱々しい。
こんな力のないリヨンを見るのは初めてだ。
よわよわリヨンだった。
俺は音を立てないようにゆっくりとベッド脇まで歩いていくと、ベッド脇に置いてあった椅子に静かに腰を掛けた。
「倒れたって聞いて、ちょっと見舞いにな。意識はあるみたいでよかったよ」
「別に、そんな大げさなことじゃないわよ」
「みたいだな。よかった。そうだ、これ。アリスベルがフィオナから貰った、王宮料理長が特別に作った秘伝の滋養強壮の丸薬だってさ。王宮料理長は薬学に精通してて、すごく元気が出るらしいから、飲めそうだったら飲んでくれ」
俺はベッドサイドテーブルの上に、さっきアリスベルに貰った丸薬をそっと置いた。
「つまりクロウは何の関与もしていないように聞こえたんだけど……」
「いちおう、ここまで持ってきた……ぞ?」
世の中には「配膳係」や「出前」というお仕事がある。
持ってくるのは大切なお役目だ――よな?
「持ってきてくれてありがとねクロウ。嬉しいわ。じゃあ早速飲もうかな」
リヨンがか細い声で呟くように言ってから、少しだけ上体を起こすと、コップに入った水で丸薬を飲んだ。
「お礼なんていいって」
「うん……」
リヨンが再び横になる。
「熱があるか確認したいから、おでこを触ってもいいか?」
「どうぞ」
俺はリヨンのおでこに自分のおでこをくっつけた。
「ちょっと、クロウっ」
「うーん、かなり熱っぽいな。実は結構しんどいんだろ?」
「絶対わざとやってんでしょアンタ……」
「何の話だ?」
「ふん!」
「なに急にキレてんだよ……身体に
「大丈夫よこれくらい。頭が少しボーっとするくらいだから」
そうは言うものの、リヨンの額はかなりの熱を帯びている。
頬も赤いし。
これはかなりしんどそうだぞ!
話は早めに切り上げて、ゆっくりと寝かせてあげた方が良さそうだな。
それにしても、うーむ。
リヨンが素直だ。
いつもの毒舌は飛んでこないし、素直過ぎてなんか調子が狂っちまうぞ。
普段のキレキレトークとのギャップで、胸の奥がなんともむずむずしてしまう。
なんていうかその、今日のリヨンはえらく可愛いく見えてしまうんだが!?
普段の美人お姉さんっぷりだけじゃなく、可愛いさを感じずにはいられないんだが!?
――っとと。
今はそんなことより、リヨンのお見舞いに注力しないと。
俺は何しに来たんだって話だ。
俺はふいに湧き上がって来たドキドキに見て見ぬふりをすると、話を続けた。
「それで医者はなんて言ってたんだ?」
「だからたいしたことないのよ。ただの過労。2日も寝てれば元通りだって」
「過労か……ごめんな、リヨンが頼りになるからって、山のように仕事を任せちゃってさ」
今日の今日まで、リヨンに頼ってばかりだったことを俺は猛烈に反省した。
たしかにリヨンは、もの凄い才能を持った100年に一人ってくらいの段違いの天才だ。
なにせ頭の回転が速くて、地味な書類仕事も得意。
勇者パーティとして5年に渡る長く苦しい魔王との戦いを戦い抜いた、気力と根性も兼ね備えている。
それをいいことに、俺はリヨンが倒れるほどに仕事を押し付けてしまっていたのだ。
リヨンだって一人の人間なんだ。
限界を超えて頑張り過ぎれば、倒れてしまうのだ。
「そんなのクロウが気にしなくていいわよ」
「気にするっての。今までは何でもかんでも困ったらリヨンに頼ってばかりだったけど、これからは気を付けるよ」
「ま、クロウにできる範囲でね。そんなことより、区画整理に関する書類なんだけど」
「書類がどうしたんだ?」
「私の執務室の机に置いてあるから、持ってきてもらえないかしら? 隣の部屋まで立って取りに行くのが、ちょっと億劫なのよね」
ベッドの上で、リヨンが再び上体を起こそうとする。
「おいおい、なに言ってんだ。まさかベッドで仕事をするつもりか? いいから今は寝てろって。医者にもしばらく寝ているように言われたんだろ? 俺も経験あるから分かるけど、過労ってのはぐっすりと寝て身体を休めるのが、一番の回復方法なんだ」
この期に及んで仕事を再開しようとしているリヨンを、俺は慌てて制止した。
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