第122話 リヨン倒れる!

 それは突然の急報だった。


「おにーさん、大変大変! リヨンさんが倒れたんだって!」

 俺が息せき切ってやってきたアリスベルから、リヨンが倒れたと聞かされたのは。


「リヨンが倒れたって? それマジな話か?」

「本当だよ。今、お部屋にお医者さんを呼んで診てもらっているみたい」


「そっか。今からちょっとリヨンの様子を見てくるよ。アリスベルはどうする? 俺と一緒に行くか?」


「アタシは今ちょっと手が離せないから、後にしておくね」

「そっか。忙しいならしょうがないな」


 アリスベルはろくに政治も仕事もできない「お飾り国王」の俺の代わりに、有能な王妃として王宮内であれやこれや走り回っては、獅子奮迅の活躍をしてくれているのだ。


「だからまずはおにーさんが会いにいってあげて。その方がリヨンさんも喜ぶだろうし」


「アリスベルが一緒の方がリヨンも喜ぶだろ? 最近はフィオナも入れて3人でご飯を食べたりしてるみたいだし、結構仲いいよな?」


 むしろその中に俺が入れてもらっていないのが、ちょっと悲しい。

 王様だからって遠慮しないで、俺もその輪の中に入れてくれていいんだぞ?

 むしろ入れてくださいお願いします。


 俺もアリスベルとフィオナとリヨンの美人女子会に参加したいよぉ~~!


「うーうん。まずはおにーさんが行って。アタシは食べやすそうなフルーツでも持って、後でフィオナさんと行くから。ね?」


「そこまで言うなら、分かったよ。1人で行ってくる。それに一斉にたくさんの人数で押しかけたら、リヨンも疲れるだろうしな」


「そうそう。おにーさんって、結構そうゆー配慮ができるよね。えらいぞー。あ、そうだ。はいこれ、滋養強壮の丸薬。リヨンさんに渡してあげて」


「なんでこんなもの持ってるんだ? もしかしてどこか悪いのか?」


 リヨンのことはもちろん心配だけど、それにも増してアリスベルのことが心配になってしまう俺。

 滋養強壮の丸薬なんて普通、持ってないよな?


「別にどこも悪くないよ?」

「じゃあどうして?」


「アタシもよく分からないんだけど、フィオナさんから

『疲れを感じたら飲んでください。薬学に精通した王宮料理長に、特別にお願いして作ってもらった丸薬です。元気がでますよ』

って言われて渡されたの。でもほら、アタシは見ての通り元気でしょ? 飲む機会がなさそうだから、ここはリヨンさんに横流ししようかと」


 アリスベルが可愛らしくウインクした。


「そういうことなら、貰っておくな。サンキュー」


「リヨンさんが心配だからって、あんまり長く居座っちゃだめだよ? 基本的にリヨンさんの言うことはなんでも聞いてあげること。背中をさすって欲しいって言われたらさすってあげて、なにか食べさせて欲しいって言われたら、おにーさんが食べさせてあげるんだよ?」


「おうよ、任せとけって。ま、間違ってもリヨンは俺にそういうことは言わないだろうけどな」


「……そうかもね。それと、もういいって言われたら、心配でも素直に退出。しんどい時は会話するのも大変だから。いつもみたいなあいさつ代わりの口喧嘩は、厳禁も厳禁だからね?」


「それも大丈夫。ちゃんとリヨン第一主義で頑張るよ。リヨンにはずっと世話になってるからさ。こういう時くらいは恩返ししないと」


「ふーん、そう?」

「おうともよ」

「ならいいけど」


 とまぁそういうわけで。

 俺は王宮の中にあるリヨンの執務室へと向かった。


 ここ最近のリヨンは執務室の隣にある、扉で繋がった私用スペースにベッドを持ち込んで、そこで寝泊まりしているのだ。


 あまりに仕事が多すぎて、王宮に出入りする時間すらもったいないとか、そんなことを言っていたのを、俺は歩いている途中に思い出していた。


「つまりそれだけリヨンに負担をかけていたってことなんだよな……」

 俺はリヨンに頼りっきりな自分を、大いに反省していた。


「リヨン、入るぞ?」


 着いて早々、軽くノックをしてから声をかけるが、返事はない。


 意識をドアの向こうに向けると、人の気配は感じる。

 おそらくリヨンだろう。


 だがいつものリヨンとは違って、なんとも弱々しい気配だった。


 そのことに、俺の心はどうにもざわついてしまう。

 俺は居ても立ってもいられなくて、もう一度ノックをしてから、返事も待たずにリヨンの部屋へと足を踏み入れた。

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