第121話 ガールズトーク「リヨン攻略会議」(2)

「で、そんなえっちっちなおにーさんが、リヨンさんと何年も一緒にいて手を出さないどころか、男友達みたいに接してるんだよ?」


「勇者様はリヨンさんを明らかに異性として見ていませんよね」 

「やっぱり一緒に戦った仲間っていう意識が強すぎるのかな?」


「その可能性は高いと思いますね」


 そうでもなければ、美人でスタイル抜群のリヨンにえっちっちクロウが手を出さないはずがない――ということは、クロウと格別に親密なお付き合いをしているアリスベルやフィオナでなくとも思うところだろう。


「でもリヨンさんもリヨンさんだよねー。素直になればいいのに、逆におにーさんにだけとびっきりの毒舌なんだもん」


「あれは十中八九、照れ隠しですよね」

「だよねー(笑)」


「あとは好きな子に意地悪しちゃうタイプなのかもしれません」

「それもあるかも」


 アリスベルとフィオナは思わずといった様子でクスクスと笑い合った。


「でもいいんですかアリスベルさん?」

「いいって、なにが?」


 目的語が明示されていないフィオナの曖昧な問いかけに、アリスベルが小首をかしげる。


「素直になるということは、リヨンさんが勇者様に想いを告げるということです。それで万が一、2人が男女の仲になってしまったら――」


 フィオナはかつてアリスベルに言われたセリフを思い出す。


『でも! 3人目はダメだからね? フィオナさんまでだからね? それ以上はマジでアウトだから。なにをどうやっても絶対に、絶対の絶対に許さないから。これ前振りじゃないからね、ガチの絶交するからね。どんな理由でもマジで一発アウトだからね』


 既に第二王妃フィオナがいて、リヨンはその「3人目」になってしまう。


「んー、なんていうかさ? リヨンさんがなんだかもう不器用すぎて不器用すぎて、とても見ていられないっていうか」

「あはは……それは確かに」


「それにリヨンさんってばすごくいい人だし? リヨンさんなら一緒に仲良くやれるんじゃないかなって思ったの……フィオナさんはどう?」


「私は――」

 正直なところ、リヨンはあまりに強力すぎるライバルだと、自己評価が低めのフィオナは思った。


 なにせリヨンときたら美人でスタイル抜群で、しかも胸まで大きい。

 しかもついツンツンしちゃうクロウだけは例外として、それ以外の誰を相手にもすごく優しくて。


 符術師としては100年に一人の天才と称賛されているし、かつて勇者パーティのメンバーとして何年もクロウと一緒に過ごした、実は勇者クロウに最も近い女性なのだから。


 だけどそれと同時に。

 クロウに想いを伝えられずに、毒舌で己の心を誤魔化す不器用な乙女な一面を見せるリヨンをなんとか手助けしてあげたいとも、フィオナは思ってしまうのだった。


 フィオナはどうしようもなく真面目で優しい女の子だったから。


 だからフィオナは言った。


「私も賛成です。リヨンさんとなら上手くやっていけると思います」


「やった♪ フィオナさんならそう言ってくれると思ったし♪ じゃあ後はどうやってリヨンさんに自分の気持ちに正直になってもらうかだね」


「正直なところ、それが最大にして究極の問題だと思います」


「普通にお膳立てしても絶対に乗らないよね、リヨンさんは」

「でしょうねぇ……」


「時々ストラスブールさんがそれとなく恋愛っぽい話になるように振ってるけど、完全にのれんに腕押し状態だもんね」


 お膳立てされたリヨンがどんな反応をするかは、フィオナにも用意に想像できる。


『なんでこの私がクロウなんかを好きだとかいう話になってるのよ? はっ! 気持ち悪い冗談はやめてよね』


 まぁおおむねこんな感じだろう。


「それにリヨンさんだけでなく、勇者様にリヨンさんを異性として認識させるのも同じくらいに大変そうです」


「なにせ、あのえっちっちなおにーさんが、女性の魅力の塊みたいなリヨンさんにさっぱりえっちっちしないんだもんね……アタシ今でも信じられないもん」


「はぁ……。まさか勇者様をえっちっちにするための方策を考える日が来るとは、思ってもみませんでした」


「その逆ならいくらでもあるのにねー」

「世の中はままなりませんね」

「ほんとにねー(笑)」


 その後、アリスベルとフィオナは夜遅くまで「リヨン攻略会議」で忌憚きたんのない意見を出し合ったものの。

 これはという結論を得ることはできなかった。


 恋する乙女心をひた隠しにしてツンデレ毒舌を振りまくリヨンと。

 そんなリヨンをまったく異性として見ていないクロウ。


 2人の関係に変化が訪れる日は果たしてやってくるのだろうか――



(リヨン攻略会議 完)


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