第120話 ガールズトーク「リヨン攻略会議」(1)

 ここは王宮の最奥にある王妃アリスベルの寝室。


 今日は第二王妃フィオナを招いてのお泊まり会が開催されていた。

 2人はとても仲良しなので、定期的にこうやってお泊まり会を開催しているのだ。


 王都の復興の話とか個人的な近況とかをザックバランに話した後。


「ねぇフィオナさん、ぶっちゃけた話なんだけどさ」

 アリスベルが愛用の枕を抱き抱えながら言った。


「はい、なんでしょう?」

「リヨンさんって絶対おにーさんのこと好きだよね?」


「あー……はい、まず間違いなくそうでしょうね」

 フィオナが苦笑し、


「だよねぇ、誰が見てもそうだよねぇ」

 フィオナの賛意を得たアリスベルがうんうんとうなずいた。


「ただ、どうも勇者様だけははその事に気付いていないようですが……」

「リヨンさんがあれだけ露骨に好き好きオーラ出してるのに、不思議だよねー」


「やっぱり出してますよね? 出しまくってますよね?」

「毎度のようにおにーさんに無理難題を頼まれても、文句は言いながらもちゃんと頼みごとを聞いてあげてるもんね」


「あれは相当好きじゃないとできないですよねぇ」


「だよねぇ。隕石落下の時も2日も徹夜して新しい術式を組み上げてくれたけど、並大抵の『好き』じゃあそこまではできないもんね」


「とても健気ですよね」

「健気だよねー」


 あはは、ふふふとアリスベルとフィオナは顔を見あわせて笑い合った。


「勇者様もリヨンさんは特別というか、リヨンさんには少し甘えている気がします」

「あ、それアタシも思ってた」


「勇者様は割と何でも自分で解決しようとするタイプなのに、リヨンさんにだけは割と何でもあっさり頼みに行きますもんね」


「ちょっと焼けちゃうよね。リヨンさんはおにーさんに信用と信頼をされてるんだなって」


「かつて勇者パーティを組んで共に戦った間柄というのもあるのかもしれません。私も騎士をしていた頃、訓練校の同期やルームメイトには特別な友情を感じていましたので」


「あ、そういうの『同じ釜の飯を食った仲』って言うんでしょ? いいよね、そういうの」

「アリスベルさんにはそういう人はいないんですか? 整体を一緒に学んだ学友とか」


「アタシは先生にちょろっと習った後は全部独学だから、そういう関係の人はいないんだよね、残念ながら」


「独学で神の手ゴッドハンドと言われる程の整体技術を習得したんですか……」


 王都の回復術師が治せなかったクロウの重度の腰痛を、一発で直してしまう技術が独学……。

 天才はやっぱり天才なんだなと、改めて思った凡人のフィオナだった。


 とはいえ誰も聞くことができない精霊の声を聞けるようになったフィオナは、今やその天才の域に足を踏み入れているのだが。

 フィオナ本人は長年にわたってザ・凡人として苦労を重ねてきたため、イマイチその実感がなかったりする。


「でもリヨンさんっておにーさんとは深い仲じゃないんだよね」


「率直に言って、勇者様の性格的にリヨンさんに手を出していないのが不思議でなりません」


「あはは、おにーさんは下半身で生きてるようなところがあるもんね。あ、そうだ。フィオナさんは知ってる? マリアンヌさんって人なんだけど」


「マリアンヌ……たしかミライト商会のご令嬢でしたでしょうか?」


 エルフ自治領の大商会の一つミライト商会の、美人で巨乳なご令嬢マリアンヌ=ミライトの顔をフィオナは思い浮かべた。


 フィオナは騎士時代になんどかマリアンヌと顔を合わせたことがある。

 明るくて性格も良く、同性から見てもとても魅力的なご令嬢だ。

 エルフ自治領に来てすぐに行われたクロウの歓迎会にも出席していたはずだ。


「そうそう、そのマリアンヌさん。でね、マリアンヌさんとダンスしてた時のおにーさんってば、ドレスからこぼれそうなマリアンヌさんの胸をずっと凝視してたんだから。もうそばで見てたらドン引きってくらいに」


「……実に勇者様らしいですね」

 フィオナが苦笑する。


 クロウがえっちっちなのはフィオナもよくよく知っているため、今さらそれに怒ったりはしない。

 さもありなんというものだ。

 

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