第119話 王様、石を切り出す(2)(ざまぁ)

「ほっ! そりゃ! せりゃ! ほいな!」


 やる気に満ち溢れた俺の活躍により、岩場は見る見るうちに切り刻まれていき。

 集積場は綺麗に切り出された石ですぐに満杯になっていた。

 

 だがしかし!

 30分ごとにリヨンに符術をかけ直してもらった俺は、途中お昼休憩を挟んで暗くなるまで、これでもかと『破邪の聖剣』を振るい続けたのだった。


「お疲れさまクロウ。はい、お茶。符術で冷やしてあるから冷たいわよ」

「おっ、サンキュー……たはー!」


 キンキンに冷えた麦茶をごくごくと飲み干す。

 労働の後の冷たい飲み物って、なんでこんなに美味しいんだろうな。


「でもこんな時間になるまでやり続けるとは思わなかったわ。しかもほとんどまっさらな岩山を丸々1つ全部切り出しちゃうなんて」


「リヨンの符術のおかげですっげースパスパ切れるだろ? 途中からどんどん楽しくなってきてさ。よし、ならいっそのこと、この山1個つぶしてやろうって思ったんだ」


「相変わらずやる気がある時のクロウの集中力は化け物クラスね」

「まぁな」


「その集中力を王様の普段の仕事にも使えばいいのにね」


「俺は座って書類を読んだり、小難しい話ばかりの会議に出るようなお仕事は本当に向いてないんだよ……」


「ご愁傷様」

 言葉とは裏腹にリヨンはどこか嬉しそうだ。


 だがな。

 それもこれも王都の復興が終わるまでの辛抱なのだ。

 頑張れ、俺。

 復興が完了すれば晴れて自由の身になる……はずだ。


「でもこれだけあれば石の値段も一気に下がるだろ」


 俺は薄闇の中で目を凝らして、とても運び出しきれずに大量に集積所に積まれたままの石を眺めた。

 明日は運搬業者と兵士を大量に動員して運び出すって話だから、これで石不足は無事に解決のはずだ。

 なんなら運び出すのも俺が手伝ってあげればいいわけだし。


「そうね、これだけあれば値崩れするってレベルじゃないでしょうね。でもそれだけじゃないわよ」


「え?」


「今回クロウが大量に石を切り出したでしょ?」

「まぁ見ての通りだな」


「その気になれば今回と同じように大量に石を切り出せるとなると、たとえ石不足がまた起こったとしても商人たちはもう金輪際、石を貯めこもうなんて思わなくなるはずよ」


「ああそうか。貯め込んで値段を吊り上げようとしても、簡単に値崩れさせられるんだもんな」


「その心理的な抑止効果は、目先の一時的な供給量の増加よりもはるかに大きな意味を持つわ。少なくとも石の買い占めで儲けようなんて商人は、クロウが生きている間はもう二度と出てこないでしょうね」


「なるほど! そういう抑止効果もあったのか」


 ピコン!

 俺はまた一つ賢くなったぞ!


「念のために聞くんだけど、そこまで分かっててやったんじゃないの?」

「ははっ、俺がそんな小難しいことを考えているわけないだろ」


 俺は石が足りないなら増やせばいいんじゃないの?

 ――くらいのことしか考えてなかったっての。


「はぁ、そうよね。クロウがいちいちそんなことを考えて行動してるわけないわよね。ごめんね、難しいこと言っちゃって。今のは私が悪かったわ」


「いやそんな風にガチで申し訳なさそうな顔されると、俺は馬鹿だって言外に言われてるみたいなんだが……」


「みたいっていうか、もろにそうよ? クロウは馬鹿だって言外に言ったのよ? ああ良かった、クロウの鳥頭でもこれくらいの皮肉なら通じてくれるのね。少しだけ安心したわ」


「……」


 今日も今日とて、リヨンの毒舌は絶好調でした。

 まぁ冷たいお茶を用意してくれたりとか、なんだかんだで文句を言いながらも手助けしてくれるので、少々の毒舌くらいは安いもんだ。



 とまぁそういうわけで。

 強欲な商人たちの買い占めによって発生した石不足問題は、俺とリヨンの活躍によって見事に解決し。


 石の価格高騰に頭を悩ませていた財務局もホッと一安心。

 少し遅れを見せていた復興事業も再加速することになった。


 そして値段を吊り上げようとした強欲な商人たちは、取得した価格以下で石を売らざるを得ず。

 差し引きでかなりの大損を出したとか出さなかったとか、後でアリスベルに教えてもらった。


 こうして今日もまた、セントフィリア王国は少しだけ平和になったのだった。


(国王様、石を切り出す。 完)

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