第113話「ふ、ふん……おだてたって何もないんだからねっ!」

「ふぉっふぉっふぉ。謙遜せずとも、どんな術も最初に作り上げるのが一番難しいことは、同じ術師であるワシが一番よく分かっておるのじゃよ。やはりリヨン殿がいてこその勇者パーティじゃのぅ」


「嫌味でもおべっかでもなく、本気で言ってそうなのがマジでムカつくわ……!」


「照れずともよいのじゃよ。リヨン殿の並外れた才覚は皆が理解しておる。ワシも、もちろんクロウもの」


「あ、わたしもわたしもー! リヨンさんはおにーさんの無理難題にいつも応えてくれるしね」


「私もリヨンさんの才能には憧憬の念を禁じ得ません。ふわっとした勇者様の説明をしっかりと形にしてしまう。本当に素晴らしい才能だと思います」


 さらにアリスベルとフィオナがのっかって、


「ふ、ふん……おだてたって何もないんだからねっ!」


 リヨンが頬を赤くしながらプイっとそっぽを向いた。


 そんな風にリヨンとストラスブール(と2人の王妃)がいつものように盛り上がっているところに、俺はシュタっと着地した。

 既に『破邪の聖剣』は鞘に納めている。


「あ、おにーさん、お帰りなさい~!」

「途中少しハラハラしましたが、勇者様がご無事でなによりでした」


「悪いな2人とも、心配かけちゃって。でももう大丈夫だから」

 飛び込むように抱き着いてきたアリスベルとフィオナを、俺は優しく抱きとめた。


「ごめんなさいクロウ。ちょっとミスっちゃってたみたいで」

 続いて少ししおらしい様子のリヨンがやってくる。


 リヨンが俺にこういう態度を取るのは本当に珍しい。

 いつ以来だろうか、正直記憶にない。


「なに言ってんだ。リヨンが作ってくれた符のおかげで、無事に巨大隕石を破壊できたんだぞ? もうリヨン様さまだっての。感謝することはあっても謝られるようなことはないよ。ほんとありがとうなリヨン」


 だから俺は自分の心に正直に、深い感謝の気持ちを伝えたんだけど――。


「…………うふふふっ」

 しおらしい態度から一転、リヨンが突然笑い出した。


「なんだよ急に笑い出して?」


「そうよね。やっぱり私は天才よね。私としたことが、なにをクロウごときに気を使おうなんて思っちゃったのかしら」


「り、リヨン?」


「ちょっとミスっちゃったのは事実だし、実際迷惑かけちゃったわけでしょ? だから貧乏なクロウから高級コスメグッズもらうのは気が引けるかなーって思ってたんだけど。やっぱり仕事の対価はちゃんと貰わないといけないわよね」


「お、おう……」

 それはあの、別に考え直してくれたって全然いいんだよ?

 むしろ考え直しちゃって?

 せめて経費で落とすのはオッケーにしてくれると嬉しいなぁ。


「うん、そうよね! ありがとう。クロウのおかげで何の気後れもなくプレゼントを要求できるわ! ってわけで後でリストを渡すから、来月になったらよろしくね♪ 楽しみにしてるから♪」


「あ、はい……承知しました……リストの提出をお待ちしております……」



 こうして巨大隕石の落下は、俺を含めたみんなの活躍によって未然に防がれ。

 同時に俺の来月のお小遣いも、高級コスメグッズに代わってリヨンの元に行ってしまうことが改めて確定した。


 俺のお小遣いと引き換えに、今日もセントフィリア王国の平穏な日々は続いていく――。


 はぁ……。

 今度王宮を抜け出して、こっそり日雇いバイトでもしようかなぁ。

 誰かいいバイトあったら教えてくれない?



(―隕石落下編― 完)


 要約すると、3度目の世界の危機を救う&ついにリヨンがヒロイン化!?なお話でした(*'ω'*)b



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