第112話「そこんとこ勘違いしないでよねっ!」
「なーに、照れずともよいぞ、ワシはちゃーんと分かっておるからの」
「全然ちっともこれっぽっちも分かってないでしょ! だいたい私は勇者パーティの一員として世界の危機のために頑張ったんであって、決してクロウ個人のために頑張ったわけじゃないんだからねっ! 世界の為ならクロウなんて死んでも全然構わないと思ってるんだからねっ! そこんとこ勘違いしないでよねっ!」
「やれやれ、相変わらずリヨン殿は素直でないのぅ」
「私のどこが素直じゃないって言うのよ?」
「……まぁそれは今はよいとしてじゃ。ではワシも勇者パーティの一員として、少しだけクロウの手助けをさせてもらおうかの」
「なにか策があるのストラスブールさん!?」
髭をしごきながら空中での連鎖爆発を見上げるストラスブールに、アリスベルが期待のこもった目を向けた。
「ふぉっふぉっふぉ。まぁ見ておるがよいのじゃよ。既に大方の術式構成は把握しておる……勇者に神の盾を授けたまえ、セイクリッド・イージス」
ストラスブールの言霊とともに新たな術式が発動し、俺の周囲に強力な魔力結界が発生する。
「これは――!」
「ふぉっふぉっふぉ。強力な魔力結界を張ってクロウを守りつつ、クロウの力とリヨン殿の術の接続を強制的に断ったのじゃよ。しばらくは残った力で誘爆が続くじゃろうが、すぐにそれも収まるじゃろうて。しばし結界内で待つがよかろう」
その言葉通り、爆裂の連鎖は少しずつ少なくなっていき。
最後に小さくポスンと最後っ屁を放ってから、暴走していた爆裂術式は完全に停止した。
爆死の危機が去った俺は、胸をなでおろしながら地上へと戻ったのだった。
「一応礼は言っておくわよストラスブール。ありがとう、あなたのおかげでクロウを殺さずに済んだわ。こんなんでも一応、勇者で国王だからね」
地上ではリヨンがストラスブールに感謝の言葉を伝えながらぺこりと頭を下げていた。
同じ希代の天才術師としてなにかとストラスブールに張り合おうとするリヨンなのに、珍しいこともあるもんだ。
「なーに、ワシにはリヨン殿のように、勇者の力を別の系統に変換するような真似はできぬ。しかし防御結界ならお手の物じゃ。これは言わば適材適所というヤツじゃよ」
「ま、まあそうよね。そもそも私だからこそできた芸当よね。ははっ、さすが私」
「いやはや、さすがはリヨン殿じゃよ。ワシもかつてともに戦った仲間として誉れ高いのぅ」
「ふふっ、ふふふふ……」
ストラスブールにこれでもかとおだてられて、満更でもなさそうにニマニマと笑い出すリヨン。
「あ、あの、ストラスブールさん。少しよろしいでしょうか?」
そこへフィオナがおずおずと手を挙げながら話に割り込んだ。
「おや、なんですかのフィオナ王妃様」
「先ほどの防御結界は勇者様の力を利用するリヨンさんの術式に割り込んで、半ば乗っ取る形で発動していると、精霊がそう教えてくれているのですが……」
「ふおっふぉっふぉ。さすがは偉大なる精霊たちと心を通すフィオナ王妃様にございますな。おっしゃる通り、おおむねそのような感じにございますのじゃ」
「ちょ、ちょっとストラスブール!? 私にしかできないとか言いながら、あなた余裕でできてるじゃないの!? さては嘘をついたわね!?」
「いやいや基礎理論を考え、それを術として完成させたのはあくまでリヨン殿じゃ。ワシは単にリヨン殿の作った術式を見よう見まねで真似つつ、ほんの少しばかり弄っただけのこと。ただの猿真似にすぎぬ」
「見よう見まねって、私が死ぬ気で開発した術式をそんな簡単に……!」
「いやはや実に素晴らしい術式じゃ。数え切れぬほど大量のバイパスを用意して、勇者の強大な力で術式が詰まらぬように工夫しているところなぞ、見事としかいいようがない。このような発想は、100年に1人の天才術師と言われたリヨン殿にしか思い付けんじゃろうのぅ。本当に勉強になるわい」
「ちょっと見ただけでそこまで理解した上に、即興で修正まで加えてみせたストラスブールに、私は今激しい怒りを覚えているんだけど!? あんたって人はもう!!」
よほど悔しかったのか、リヨンが地団太を踏んだ。
リヨンは超がつく美人なので、コミカルな姿とのギャップがとても可愛かったりする。
俺が言うと間違いなくキレられるので絶対に言わないけども。
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