第114話 監禁される国王

 王都の復興事業が続く中、この日も俺は、採光用のはめ殺しの窓しかない殺風景な部屋に閉じ込められていた。

 どうやら城から脱走できないように新しく作られた俺専用の監禁部屋らしい。


 ちなみに俺はこのセントフィリア王国で一番偉い国王様である。


「信用されてないなぁ……まぁ脱走した前科がたんまりあるから仕方ないか……」


 もちろん史上最強の勇者と言われたこの俺だ。

 その気になればこんな薄壁一つ破壊するのはたやすい。

 それこそワンパンで木っ端微塵だ。


 だがしかし。

 そんなことをしでかしてしまえばアリスベルに大目玉を喰らうことは確定的に明らかなので。

 俺は仕方なく、中身も読まずにただひたすら無心で大量の書類に次々とハンコを押していった。


 ペタン、ペタン、ペタン、ペタン……。


 押しても押してもとんと減らない膨大な量の書類に、黙々とハンコを押し続けていると、監禁部屋にアリスベルがやってきた。


「おにーさん、会議の合間に様子を見に来たんだけど、調子はどう? 作業は進んでる?」


「アリスベル~、いっぱいハンコ押して疲れたよぉ~。ぎゅってしてくれ、ぎゅって。むしろエッチしちゃう? 愛を確かめ合いつつ、ストレス発散もかねてエッチしちゃう? アリスベルとなら俺はいつでもオッケーだぞ?」


 俺は速攻で甘えた口調で泣き落としにかかった。

 ついでにえっちっちを提案するのも忘れない。

 ちょうどここは誰も入ってこない密室だしな、むふふ。


「はいはい、書類全部に判子を押し終わったらね」


 しかしかくも冷たくあしらわれてしまった。

 悲しい。


「でもぶっちゃけた話さ? どうせ中身は読んでないんだから、俺の代わりに誰か人間が押しても変わらなくないか?」


 王印が押されていればいいのなら、誰が押したって一緒だよな?


「前にも言ったでしょ? 官僚が作って大臣が提出した書類を、王様が最後にちゃんとチェックをするって過程が大切なの。そこをないがしろにしたせいで、側近が王様がチェックしないと思って勝手に自分に都合のいい文書を偽造して、それに勝手に王印を押して大問題になった事例は過去に山ほどあるんだから」


「クソ側近めが……! まったくなんてことしてくれやがったんだ! 俺は今ほどその側近とやらに殺意を覚えたことはないぞ!」


 貴様さえいなければ!

 貴様さえいなければ俺はこんな目にはあわなかったというのに……!


 俺は心の中で、俺を勇者たらしめる正義の心が熱く燃え盛っているのを感じていた。 


「あ、あと堂々と中身を読んでないって外では言わないでね。隅々までチェックして書類を作った官僚さんがリアルに泣いちゃうから」


「へーい……」


 と、そこで俺はアリスベルがどうにも疲れた顔をしているのに気が付いた。


「アリスベル、ちょっと疲れてるか? 声もちょっと張りがないし」


「まぁ、ちょっとねー。最近忙しいし、問題は山積だし、おにーさんはすぐ脱走するし。悩みは尽きないよ」


「悩みごとなら相談に乗るぞ?」


 俺は一部聞きたくないところを華麗にスルーしつつ、アリスベルを抱き寄せて太ももの上に抱っこするように座らせた。

 アリスベルの身体を後ろからぎゅっと抱きしめると、柔らかい感触といい匂いがしてきて、無味乾燥なハンコ押しで摩耗した心が一気に活力で満ち溢れていく。


 柔らかいなぁ。

 いい匂いだなぁ。

 もっとギュってしていたいなぁ。


 むくむく……!!


「おにーさん、まじめな顔して相談に乗るぞとか言いながら、お尻に硬いのが当たってるんだけど」


「あ、はい、すみません。どうにも身体が正直なもので……。じゃあもういっそのことエッチしちゃう?」


 もう一人の俺はアリスベルの柔らかさと匂いに反応して、猛々しくパオーンしつつあった。

 アリスベルのお尻の柔らかい感触に当たってむずむずするせいで、さらにパオーンがパオパオーンしてしまう。


「ほんっとおにーさんの下半身は正直だよね……でも後でね、今ちょっと疲れてるから」

 しかし相も変わらずつれないアリスベル。


 エッチの無理強いは良くないので、俺はぎゅっとアリスベルを抱っこしながら身体を密着させるだけで我慢することにする。


 我慢だ、ここは我慢だ。

 勇者の忍耐力を舐めるなよ!


 なによりここで我慢すればするほど、あとでエッチした時に激しく盛り上がるんだからな……!

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