第115話 石不足

「それで悩みごとってのはなんなんだ?」


「うーんそうだね、せっかくだしおにーさんの力も借りてみようかな?」

「おうよ、任せとけ!」


 アリスベルに頼られていい気分な俺は、気分よく胸を張る。

 いいところを見せて惚れ直させてやるぜ!


「実はね、復興事業で使う石が最近すごく高騰してるの」


「復興事業には大量の石が必要だもんな。石がないと道路の舗装も家を建てることもできないわけだし。そりゃ少しくらい値段も高くなるんじゃないか?」


 家を木材で建てる工法もあるにはあるがあまり一般的ではなく、技術を持っている職人もほとんどいない。


 そして大量の石が必要ということは当然、需要が供給を大きく上回るわけで。

 すると値段が高くなるのは当然の帰結だった。


 ふふん、さすが俺。

 経済のお勉強を最近フィオナにみっちりやらされてるから、これくらいは分かるようになったぞ。


 エッチする気満々でフィオナのお部屋に遊びに行ったら、椅子に座らされて難しい言葉がいっぱい並んだ経済の教科書を広げられたことが何度あったことか……(涙)


 まぁみっちりお勉強させられた後は、家庭教師フィオナ先生と秘密のしっぽり個人レッスンを満喫しちゃったりしたわけなんだけど。


『もう、クロウくんはさっきからどこを見てるのかな? 視線がエッチだぞ?』

『もうしょうがないなぁ。でもこんなことするのはクロウ君だけだからね?』

『ふふっ、今から先生が大人の男にしてあげる♪』


 むふふー。

 先生と生徒のシチュエーション、楽しかったなぁ。

 フィオナは普段のエッチから結構ロールプレイに付き合ってくれるんだけど、なんかいつにも増してノリノリだったし。


 それはさておき。


「それがどうも一部の商人が、石切り場から大量に石を買い占めているみたいなの。ただでさえ石の需要が供給を大きく上回ってたのに、さらに供給量が落ちたせいで石の値段が暴騰しちゃってるんだよね」


 アリスベルが肩を落としてため息をつく。


「またそういう話か。王都復興の一大プロジェクトなのに、なんでみんな仲良くできないのかなぁ」


 別に金儲けするなとは言わないけど、限度ってもんがあるだろ?

 もう少し世のため人のために行動してもいいんじゃないか?


「大きな事業になればなるほど、動くお金も大きいからねぇ」

 そうは言いながらも、アリスベルもこの件にはさすがにうんざりしているようだ。

 声にまったく張りがない。


 アリスベルをしょんぼりさせる強欲商人どもめ、許さんぞ!


「国家プロジェクトともなればそれこそ費用は桁違いだから、金儲けにはまたとないチャンスってわけか」


「それで復興予算が高止まりしちゃって財務局が悲鳴をあげてるんだよね。節約にも限度があるし、かといって手抜き工事はできないし」


「とりあえず現状は理解したよ。でも庶民から王様まで必死に復興を頑張ってるのに、金儲けしか考えない奴のせいで、引っ張られなくてもいい足を引っ張られるのは納得いかないなぁ」


「そういうわけだから、ねぇねぇ。これ、おにーさんの勇者の力でなんとかならないかな? 供給量を増やそうにも石を切り出す職人も追いついてないし、おにーさんが石を大量に切り出せたりしない?」


 なるほど、アリスベルが俺にしたかったお願いはこれか。


「ごめん、多分無理だな。俺はパワーの最大出力は歴代勇者でもトップクラスらしいんだけど、精密なコントロールに関しては歴代最底辺レベルらしいから。多分石を切り出そうとしたら片っ端から粉々に粉砕しちゃうと思う」


「そっかぁ。なかなかうまくいかないね……こうなったら最終手段かなぁ。でもなぁ……」


 この後の話は小難しくなるので要約すると。

 アリスベルが言うには最悪、物価統制令を出すしかないって話だった。

 物の値段を国家がいくらと決める法律を出すのだ。


 だけど物価統制令を出すと、安い値段で売り払いたくない商人が在庫を積み上げる可能性があるらしく。

 そうすると、さらに供給力が下がって復興が遅れる可能性があるとのことだ。

 そこからは国と強欲商人のどちらが先に音を上げるか、我慢比べになるのだそうだ。


 世の中はほんと難しい。

 色々と一筋縄ではいかないなと思う国王の俺だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る