第109話 来月の俺は極貧生活が確定したようだ……(´・ω・`)

「うーん、200メートルってサイズがさすがにデカすぎるのと、あとは思っていたよりも硬いってことなのかな?」


「岩石ではなく、なにかしらの硬度の高い金属でできているのかもしれませんね。これは想定外でした……」


「ど、どうするのおにーさん? もう一回ジャスティス・ラグナロク・ブレイクしちゃう?」


「なんか表面が削れるだけで、効果が薄そうなんだよなぁ……やっぱ近づいて直接叩くしかないか」


 ジャスティス・ラグナロク・ブレイクは力の消費が激しい=回数制限があるので、効果が薄い時には正直あまり使いたくなかったりする。


「直接って言っても、あんな宙に浮いてる隕石相手にどうするの?」

「それに斬撃では、破壊できたとしても破片による地上への余波を免れないのではないでしょうか?」


「おいおい2人とも忘れたのか? 本気を出した俺は空だって飛べるんだぜ? ま、安心しろ。こんな石ころ一つ、勇者の俺が完膚なきまでに粉砕してやるから」


「巨大隕石の落下はもう始まっているんだよ!?」


「最強勇者は伊達じゃないさ! ちょうど応援も来たしな」


 俺が屋上庭園の入り口に目を向けると、


「ちょっとクロウ! いい加減にしなさいよね!」

 そこには疲れ果てた顔をしながらも大声で俺を怒鳴りつけるリヨンの姿があった。


「よっ、リヨン。ナイスタイミングだ。その様子だと頼んでいたのが完成したみたいだな」


 俺は『破邪の聖剣』を持たない左手を軽く上げて挨拶をする。

 しかし目の下に大きなくまを作ったリヨンは、完全にイライラ&キレキレモードだった。


「なにがナイスタイミングよこのアホ! これ作るのに2徹したのよ2徹! 私ももういい年なんだから、徹夜なんてするとお肌のコンディションがヤバイことになっちゃうんだからね!?」


「あはは、ごめんごめん。今度メシ驕るからさ」


「軽っ!? おにーさん軽すぎだよっ!?」

「勇者様、話の流れ的にせめて高級コスメグッズをプレゼントくらいしませんと……」


「はいはい分かったよ。経費で落とすから欲しいのがあったら教えてくれ」


「はんっ! 経費で落としたものなんてありがたみがないわ。クロウのお金で買ってちょうだい。それなら特別に貰ってあげてもいいわよ」


「いやその、俺って今お小遣い制でさ。あんまりお金がなくて……」


 俺は一応この国の国王なのだが、莫大な資金が必要な王都の復興事業が終わるまで、お小遣い制で厳しく金銭管理されているのだ……(´・ω・`)


「クロウのふところ事情なんか私が知ったこっちゃないわね」


「あ、はい、そうっすね。えっと……今月分はもう使っちゃったので、来月まで待ってくれるか……?」


 無い袖は振れないので、俺が妥協案を提示すると、


「じゃあ2割増しね」

 リヨンがそれはもう嬉しそうににっこり微笑んだ。


 来月の俺は極貧生活が確定したようだ……(´・ω・`)


「それで例の物はできたんだよな?」


 俺は気を取り直して再び尋ねる。


「当たり前でしょ。私を誰だと思っているのよ? クロウの要望通り、攻撃を爆裂に変換する符よ」


 不敵に微笑みながら、精緻な絵と文字がびっしり書き込まれた一枚の札を、リヨンがどこからともなく取り出した。


 いつも思うんだけど実戦で鍛え上げた勇者の観察眼ですらどこから取り出すか見抜けないんだけど、もしかして謎空間に道具を出し入れする特殊な術式でも持っているのか?


 いやまあ、どうでもいい話なんだけど。


「サンキュー、さすがリヨンだ」


「言っとくけど、古今東西いろんな術師がいるけど、勇者の力を変換するなんてことができるのは100年に一人の天才と言われる私ぐらいなんだからね?」


「分かってるってば」


「しかも勇者パーティを組んで長年近くで勇者の力を見てきた私だからこそ、できるんだからね? 心から感謝して使いなさいよ」


「いつもありがとうな。本当に昔からリヨンには頼りっばなしだ。死ぬほど感謝してるよ」


 俺は素直に心からの感謝の気持ちを伝えた。

 本当に俺はリヨン助けてもらってばかりだ。


「ふ、ふんだ! 分かればいいのよ、分かれば! ほら、分かったんならとっととあの空に浮かぶ目障りな石ころを破壊してきなさいな。クロウにしかできないんだから」


 そう言うとリヨンはプイッとそっぽを向いた。

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