第105話「問答無用っ! 死んで詫びなさいこの悪党めが!」

「こ、こいつ女のくせになんて強さなんだ!?」


 生き残ったもう1人のチンピラが怯えた声をあげる。

 フィオナにドスを向けてこそいるものの。

 その先端は恐怖で完全に震えてしまっていた。


「私は騎士上がりですので剣を扱うのは日常茶飯事です。しかしながら、騎士時代にもあなた方のような外道はそうは見たことはありません」


 フィオナは隙のない構えのまま、怒りの言葉を放ちながらチンピラに近づいていく。


「く……っ」


「王都壊滅という国難にありながら、地位にある者が私欲を満たすために不正を行い民を虐げる……私は許しがたい気持ちでいっぱいで、今にも胸が張り裂けてしまいそうです!」


 フィオナが足を止めた。

 チンピラを自分の剣の間合いに入れたからだ。

 もうこれ以上進む必要はない。


「ひっ、ひっ、ひっ……お、お助けを……」


「問答無用っ! 死んで詫びなさいこの悪党めが!」

 フィオナは残るもう1人のチンピラも、その正義の刃で容赦なく斬り伏せた。


 そしてその頃には衛兵は全員、俺にやられて気絶してるか痛みにうずくまっていた。

 もちろん俺の方はまったくの無傷だ。



「さてと、残るはお前ひとりだぜヴェルトレイ」


 俺は唯一残ったヴェルトレイを睨みつけながら、『破邪の聖剣』の切っ先を向ける。


「く、クソがぁっ……だがな! 俺は剣もそれなりに使えるのだ! 覚悟しろ、クロウ王! そのお命、ここで頂戴させてもらうぞ!! キエエエエッッ!!」


 剣を抜いたヴェルトレイが獣のような雄たけびを上げて斬りかかってくる。

 足さばきは流れるようだし、打ち筋もなかなかに鋭い。


「でもまぁ自分で言うとおりしょせん『それなり』だな。勇者の相手をするには、まったくもって力不足だ」


 俺は冥土の土産にヴェルトレイの打ち込みを何度か受けてやってから。

 実力差を見せつけるようにヴェルトレイの剣を下から打ち上げた。


 ガキン――ッ!

 ヴェルトレイの剣が弾かれて高々と舞い上がる。

 両手が上がってがら空きになったヴェルトレイの身体を、俺は袈裟斬りに斬り捨てた。


 もちろん全力ではない。

 俺が勇者の力を全開放して本気で打ち込んだら、衝撃で真っ二つになったヴェルトレイの身体が屋敷や壁を貫通して4,5軒隣の家まで飛んでいっちゃうからな。


「かは……っ」

 ヴェルトレイは血を吐きながら崩れ落ちると、そのままピクリとも動かなくなった。


 これでこの場所で立っているのは、俺とアリスベルとフィオナだけ。


「これにて一件落着だな」


 今日も俺(とフィオナとアリスベル)の大活躍によって、セントフィリア王国の正義は守られたのだった。



「おにーさんお疲れさま。見た感じ衛兵の人たちは全員無事みたいだね。さっすがー、やるー」


 傷一つついていない『破邪の聖剣』を鞘に納めた俺のところに、アリスベルとフィオナがてこてことやってきて、まずはアリスベルがねぎらいの言葉をかけてくれる。


「まぁこれくらいは楽勝だよ」


 だがしかし、楽勝であってもアリスベルに褒められて悪い気はしないのである。

 いいぞ、もっと俺を褒めてくれアリスベル!


「みんな貴重な人手だからね。怪我が治ったらまた頑張ってもらわないとだし」


「そのためにも、職務を忠実に遂行したってことをちゃんと説明してあげないとだな。王である俺に剣を向けたことを気にする奴もいるだろうし」


「じゃあいっそのこと、みんなを集めておにーさんが直々に声をかけてあげるってのはどう?」


「それくらいならお安い御用だ。ミズハとかも呼んで無礼講の懇親会を開くのもありかもな。飲み食いしながら俺にフレンドリーに話しかけられたら、みんな心の底から安心できるだろうし」


「それ単におにーさんが普段通りにふるまった方が楽だからでしょ?」


「お、俺の考えが完全に見透かされてしまっている件に関して……」


「あはは、おにーさんの考えてることくらいすぐ分かるし」


 とまぁ話がいい感じに一段落したところで、今度はフィオナが声をかけてきた。


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