第104話「セントフィリア王国を食い物にする俗物どもめ……!」

「俺は立てと言った覚えはないんだけどな?」


「くくく、たかが一介の浪人ふぜいに、なぜこの俺が頭を下げねばならんのだ?」

「どういう意味だ?」


「お前は俺の屋敷に侵入した不審者のクロノスケ――ここで殺せばそういうことになるのだよ! 者ども出あえ! 出あえ! 曲者くせものだ!」


 ヴェルトレイが叫ぶと、すぐさま30人ほどの衛兵が現れた。

 とても見慣れた、セントフィリア王国の正規兵に支給される装備を付けている。


「ねえおにーさん、この人たち国の衛兵だよ?」

 アリスベルが俺の背中をチョイチョイとつつきながらささやく。


「そっか、高級官僚の屋敷には護衛のために衛兵が付くことになってるもんな」


「言っとくけど、殺しちゃだめだからね? 今はもうほんと人手が足りないんだから」

「もちろんだ」


 しかし呼び出された衛兵たちは俺を見て、一様に困惑した表情を浮かべていた。


「なぁあれってクロウ国王陛下じゃないのか?」

「後ろにいるのもアリスベル王妃様とフィオナ第二王妃様だよな?」

「だよなぁ。俺も前は王宮の警備してたから見たことあるもん」


「くっ、ぐぬっ、ば、バカ者め! あ、あれはだな! その……そうだ! お前たちを油断させるための……そう、コスプレなんだよ! 国王陛下と王妃様のコスプレをしてこの屋敷に入り込んだのだ!」


「で、ですが……」


「だいたい考えてもみろ? 国王陛下が2人の王妃様と共に、護衛もつけずにこんなところにやって来るはずがないだろうが! 分かったら早くこの不届き者たちを切り捨てろ!」


「た、確かにそうであります!」

「失礼しました!」

「クロウ国王陛下と王妃様の名と姿を語る不届き者め、許さんぞ!」

「成敗してやる!」


 ああうん。

 そうだよなぁ。

 そう言われると、衛兵は納得しないといけないよなぁ。


 そもそもここにいる衛兵は、高級官僚のヴェルトレイを守るのが任務なんだし。

 まさかヴェルトレイ自身が悪の親玉だとは思っていないもんな。


「しゃーない、ちょっとやってくるよ。俺が全部片づけるけど、フィオナは念のためアリスベルを守ってやってくれ」


「かしこまりました」

「おにーさん、やりすぎ、厳禁!」


「はいはい分かってるってば……ってわけで悪いがちょっと通させてもらうぞ」


「させんぞ!」

「ここから先は一歩も通さん!」


 俺が『破邪の聖剣』をスラリと抜くと、それを合図に衛兵たちが俺に斬りかかってきた。

 高級官僚を守っているだけあって、ここにいる衛兵はそれなりに能力が高い。


 仲間との連携も見事で、人数の多さを最大限に生かすような動きで俺を攻撃してくる。

 士気も高いし、これならセントフィリア王国の未来も明るいな。


 しかしながら、だ。


「とりあえず今は寝ててくれ。別に俺に歯向かったからって、評価を下げたりはしないからさ」

 勇者である俺との力の差は歴然だった。


 俺は手加減をしまくりながら、なるべく大怪我だけはさせないように衛兵を気絶させていく。


 そんな中、チンピラ2人組がフィオナとアリスベルを狙うような動きを見せた。

 ドスをちらつかせながらフィオナとアリスベルに忍び寄る。


 俺は当然その動きにも気付いていたんだけど、敢えてスルーした。


「ヒャッハー! あの女2人を人質に取ってやるぜ!」

「おいお前ら! 命が惜しければ大人しく言うことを聞きな――グギャァ!」


 ――というのも、そもそも心配をする必要なんてなかったからだ。


 俺にやられた衛兵が落とした剣を拾っていたフィオナが、チンピラの一人を一刀のもとに斬り捨てていた。


 既にその命はない。

 一片の容赦もない見事な太刀筋だった。


「セントフィリア王国を食い物にする俗物どもめが……! たとえ神が許してもこのフィオナ=ノースウインドは許しはしません!」


 フィオナは剣を振ってついた血を払うと、残るもう一人のチンピラに向けて怒りに満ち満ちた顔を向ける。


 正義感の強いフィオナにとって、国を導いていくべき高級官僚ともあろう者が、チンピラを使って庶民をいじめて私腹を肥やす構図は、心底許しがたいのである!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る