第103話「不敬な輩どもめ! これなるお方をどなたと心得るのです!

~~クロウSIDE~~


「悪いがその悪事、許すわけにはいかないな――!」


「な、何者だ!」


 俺は名乗りを上げる代わりに、裏門のドアを軽く蹴って吹き飛ばすと、アリスベルとフィオナを引き連れて屋敷へと踏み行った。


 普通に開けて入っても良かったんだけど、アリスベルとフィオナの前だったので敢えてカッコよく蹴り飛ばして開けた。

 何ごともアピールは大事である。


「いやー、お前らがペラペラと悪事をしゃべり倒してくれて助かったよ。おかげでいちいち面倒な手続きを踏んで尋問する手間が省けた」


「あ、アニキ! こいつだよ、こいつ!」

「そうそう! こいつがいきなり出てきて俺らの邪魔をしやがったんだ!」


 俺の顔を見たとたんに、チンピラ2人が揃って俺を指差しながら騒ぎ始める。


「さっきはよくも邪魔してくれやがったなテメェ!」

「ここで会ったが百年目、ボコボコにしてやるぜ!」


「言っとくが、ここでなら死んでも不幸な事故で済んじまうんだぜ?」

「げへへっ、アニキの権力はそれはもうすごいんだからよ!」


 おーおー、調子に乗ってるなぁ。

 これでもかってくらいに調子に乗りまくってるなぁ。


「王宮騎士だか何だか知らねぇがここでは容赦はしねえぜ!」

「ぶっ殺してやる!」


 でもいい加減ムカつくから、そろそろこいつらに俺が誰だか教えてやるか。

 ――と思ったところで、


「不敬な輩どもめ! 黙って聞いていれば品性下劣なセリフをペラペラと! 口を慎みなさい! これなるお方をどなたと心得るのです!」


 まるで俺の心を読んだかのように、フィオナが絶妙なタイミングで鋭く叱りつけた。


 しかも言い回しが超カッコいいんだが!?

 さすがフィオナだ。

 元々エルフ自治領で真面目な騎士として評価されていただけのことはあるな!


 騎士は戦うだけじゃなくて、名乗りをあげたり下級兵士の前で演説したりするスキルがいるのである。


「これなるお方だと……?」


 そんなフィオナの言葉に、いぶかしむような視線を俺へと向けるヴェルトレイ。


「よっ、ヴェルトレイ。儲け話に目が眩んで俺の顔を見忘れたか? つい先日も復興会議で会ったばかりだよな?」


「キサマ、国土建設事務次官補のこの俺を呼び捨てにするとは無礼な――ん? 復興会議だと?」


「そうそう、そこで補償金の増額の話とかが出たんだよなぁ」


「なぜ補償金の話をキサマが知っている? この話は国王陛下や大臣、ごくごく限られた一部の高級官僚くらいしか知らないはず――――ま、待て……えっ!? いや、ええええっ!!?? く、くくクロウ国王陛下!?」


 ヴェルトレイは目をまんまるに見開いたかと思うと、慌ててその場に平伏した。


「ちょ、アニキ、急にどうしたんだよ?」

「なに地面に這いつくばってるんだよ? 腹でも痛いのか? それとも腰痛か?」


「こ、この大馬鹿どもが! このお方はクロウ国王陛下だ! 何をしている、早く頭を下げんか! 早く!!」


「「は、はは~~」」


 ヴェルトレイに怒鳴りつけられたチンピラ2人組が、イマイチよく分かっていなさそうな顔で慌てて地面に平伏した。


「じゃあ俺が誰だか分かったところで、ヴェルトレイ」

「は、ははっ!」


「お前は事務次官補という地位にありながら、それによって得た補償金の情報を悪用し、強引な地上げによって事前に土地を手に入れることで、莫大な利益を手に入れようと画策した。違いないな?」


「ぐ……、ぬ……っ」


「その罪もはや論ずるに値しない。お前も国に尽くす官僚の一人なら、いさぎよく法の裁きを受けろ」


「…………」

「急に黙り込んでどうしたんだ? 国王の俺がが直々に問いかけてるんだ、返事くらいしたらどうだ?」


「くっ、くっ、くくくっ……」

「今度は何がおかしいんだ?」


 突然、ヴェルトレイが笑い始めたかと思うと、上体を起こして俺を睨みつけた。


「王宮騎士ですらなく、よもや国王陛下だったとはな。俺という男はどうにも運が悪いらしい」


「悪いのは運じゃなくてお前の素行だろ? 真っ当に生きてりゃこうなることも無かっただろうにさ」


「はははっ! 目の前に大金が転がっているのに拾わぬのはバカと言うのだ! そして俺はバカではない!」


「別にお前の金じゃあないんだけどな? 元は大切な税金だし、移転しないといけない人たちが新居でやっていけるようにするための、そのための補償金だ。お前の金じゃない」


「ただそこに住んでいたというだけの誰かがポンと手に入れるのなら……誰が手に入れてもいいのなら! なら俺が手に入れて何が悪い!!」


「思い違いもはなはだしいな。少なくともお前にはその権利はない。っていうか、なんかもう面倒くさくなってきたし、後は法務官にでも任せるか……」


「……くくっ、思い違いをしているのはあなたの方ですよ、クロウ国王陛下――いやクロノスケ!」


 ヴェルトレイは俺を「クロノスケ」と呼ぶと、睨むような目つきをしながら荒々しく立ち上がった。

 弟のチンピラ2人もこれまたよく分かってないような顔のまま立ち上がる。

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