第102話「悪いがその悪事、見過ごすわけにはいかないな――!」

「でもよアニキ聞いてくれよ!」

「その妙な奴ってのが、どうも王宮騎士らしいんだ。クロノスケとかいう名前らしくてさ」


「なにっ、王宮騎士だと!? ……まさか俺の計画に気付かれたのか?」


 チンピラ2人から理由を聞いた途端に、ヴェルトレイの顔色があきれ顔から一転、真剣なものへと変わった。


「腰に剣を下げててよ。王宮の法務官とも知り合いらしくて『出るとこ出たっていいんだぜ?』って脅されたんだよ」


「俺らも色々とまずいことをやってるからよ。とりあえずその場は引くしかなかったってわけさ」


「くそっ、まさか地上げの捜査に来たのか? ということは俺も疑われている? いや、それにしては動きが速すぎるな。だいたい今は復興事業で大臣も官僚も騎士も、王宮にいる人間は大忙しでそんな余裕はないはずだ……ということはたまたま偶然その場に王宮騎士が居合わせたのか。なんと運の悪いことだ」


 ヴェルトレイは顔をしかめながら、仰々ぎょうぎょうしく肩をすくめて天を仰いだ。


「アニキ、俺らはどうしたらいいんだ?」

「とりあえず地上げを続けてりゃいいのか?」


「いや、万が一ということもある。もし本当にそいつが王命で捜査をしているを特命騎士だとしたら、下手を打てば俺の地位まで危うくなる。それでは本末転倒だ、地上げどころじゃなくなる」


「じゃあ計画は諦めるのか? まだ全部で5,6軒しか地上げしてないんだぜ? それじゃたいした金額にはならないだろ?」

「ええっ、ってことはやり損かよ?」


「いいや諦めはしないさ。仮に特命騎士だとしてもそう長くは調査はできないだろうからな」


「そうなのか?」

「アニキが言うならそうなんだろうな」


「なにせ今の王宮は人手不足で、猫の手も借りたいくらいに忙しいのだ。優秀な王宮騎士を一人遊ばせておく余裕なんぞはないはずだ」


 ヴェルトレイはそう言うと、少し黙考してから言った。


「よし、金は用意してやる。お前らはほとぼりが冷めるまで一月ほど王都を離れて、衛星都市のどこかにでもしばらく身を隠しておけ」


「わ、分かったよアニキ」

「けどよ、そんなにゆっくりしてたら、補償金の話が世間に出ちまうんじゃないのか?」


「なあに、再整備計画は俺が全力で引き延ばす。いくつかある小さな問題を、さも大問題であるかのように見せかけることくらい、俺にかかれば造作はないからな。ほとぼりが冷めたら地上げ再開といこう――」


「へへっ、さすがアニキだぜ!」

「ほんとアニキは頭が良くて頼りになるな!」


「まぁ考えるのは俺に任せておけ。お前らは黙って俺の言うとおりにしておけば間違いはないのだ」


 ヴェルトレイがニヤリとあくどい笑みを浮かべたその瞬間――。


「悪いがその悪事、見過ごすわけにはいかないな――!」


 突如として。

 良く通る鋭い声が裏庭に響き渡った――!!

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