第101話 国土建設省・事務次官補ヴェルトレイ
~~悪人SIDE~~
「バカ者、ここには来るなと言ってあっただろう! お前らみたいな人間と会っていることが誰かに見られでもしたらどうする!」
国土建設省の実務ナンバー2である「事務次官補」を務めるヴェルトレイは、自分の屋敷の裏門で、例のチンピラ2人組を小声で怒鳴りつけた。
「わ、わりぃ」
「ごめんよアニキ、でもよぉ……」
「まったくお前らは昔から出来が悪くて困る」
「アニキがずば抜けて頭が良すぎるんだよ」
「そうそう俺らは普通だってば」
アニキという言葉からも分かるように、実はこの3人は血の繋がった兄弟である。
しかし長兄のヴェルトレイがその生まれついた優秀さから、子供のいなかったとある裕福な家庭に養子に出され、成長して王宮勤務の高級官僚となったのに対し。
下の2人は粗野で粗雑で低能でスカポンタンであったため、貧しい実家で教育もろくに受けずに育ち、ご覧のようにどこに出しても恥ずかしいチンピラになり果てていた。
それでも血のつながった兄弟の絆は分かたれることはなく。
ヴェルトレイは大出世を成し遂げた後も、裏でこっそりとこのチンピラになった弟2人の面倒を見てやっていた。
――というのはもちろん建前で。
ヴェルトレイはこの粗野で馬鹿でチンピラな弟2人の面倒を見るふりをして、自分がのし上がるための何でも言うことを聞く口の堅い駒として、上手く利用していたのだった。
「まさかとは思うが、誰かにつけられていたりはしないだろうな? 今のオレはお前らと一緒にいるだけでも問題になるくらいに、それはもう偉い立場にいるんだぞ? 何度も説明しただろう」
●国土建設省●
1番偉い:国土建設大臣
2番目に偉い:国土建設省・事務次官
3番目に偉い:国土建設省・事務次官補(←ヴェルトレイ)
国土建設省で現在3番目に偉いのがこのヴェルトレイという男だった。
本来ならまだまだこの地位にたどり着くには年季を重ねる必要があったのだが。
超越魔竜イヴィルナークの王都襲撃によって上級官僚も多数亡くなったため、生き残ったヴェルトレイのところまで一気にその地位が回ってきたのだ。
「わ、分かってるってばアニキ」
「ちゃんと周りは警戒してきたからよ」
「ふん、どうだか……まあいい、とにかく中に入れ、ここで話しているのはもっとまずいからな」
「サンキュー、アニキ」
「すまねぇ」
チンピラ2人組はヴェルトレイに背中を押されながら足早に裏門をくぐった。
「それで今日はいったい何の用なんだ? 例の再整備地区の顔役をやっている老店主の地上げが成功したという吉報でも持ってきたのか?」
門を入ってすぐの裏庭で、ヴェルトレイは少しうんざりしたように尋ねる。
「それがよ、あとちょっとのところで邪魔されちまったんだ」
「そうなんだ、なんか妙な奴に口出しされて追い払われたんだ。今日はその報告なんだけど……」
「妙な奴だと? まさか町人に邪魔されたからと、すごすごと逃げ帰ってきたのか? なんのためにお前らに地上げをさせてると思ってるんだ。子供の使いじゃないんだぞ」
イライラを通り越してあきれ顔で、やれやれとため息をつくヴェルトレイ。
「ほんとすまねぇアニキ」
「面目ねぇ」
「前にも言ったが、あの辺り一帯にはかなりの額の立ち退き費用が国から補償される予定なんだ。そうしたら地上げにかかったはした金との差額は、丸々俺たちの物って寸法だ。それくらいはお前らのグズな頭でも分かるな?」
「そ、それは分かってるって」
「うんうん、分かってるよアニキ」
「だがあの顔役の団子屋のじじいがなかなか地上げに応じないせいで、他の奴らもなかなか首を縦に振りやがらない。補償金の話が公になれば、その時点で俺たちの計画はパァだ。グズグズしている暇はないんだぞ」
「だ、だよな」
「俺らだってそれは分かってるよアニキ」
「お前らだってパァッと派手に豪遊したいだろう? ならとっとあのじじいの土地を地上げしてくるんだ」
な、なんということだろうか!
一連の強引な地上げは、この国土建設省・事務次官補であるヴェルトレイが、弟のチンピラ2人組を使ってやらせていたのだ!
国土建設省で3番目に偉い地位を利用し、再整備地区に高額の補償金が出る話を知ったヴェルトレイは。
一帯の土地を安い値段で地上げして手に入れ、多額の補償金で大儲けをしようと企んでいたのだ!!
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