第92話「曲者じゃ! 者ども出あえ! 出あえ!」

「別にそこまでする必要はないんだけど、話しにくいしさ。顔くらい上げようぜ」

「み、御心のままに」


 俺の言葉を受けて、平伏したまま顔だけを上げるボリフェノール侯爵。


「それでボリフェノール?」

「ははぁっ」


「俺が腰痛なのをいいことに、あることないこと言われてダグラスやお前に追放された時以来だから1年ぶりくらいか? 王宮を追い出されてもなお、こうやってお友達と仲良く国の将来を語り合っているなんて、元気そうでなによりだよ」


「く、クロウ国王陛下におかれましても、ご壮健のようでなによりにございますれば……」


「ははっ、そりゃどうも。王都を追放されたおかげで腕のいい整体師に出会えて、腰も無事に治ったおかげだな」


「そ、それはようございましたな」


「とりあえずおためごかしで嘘臭い旧交を温めるのはこれくらいにして。お前らの悪だくみは全て聞かせてもらったぞ。もう終わりだ、エチゴ屋ともども大人しくお縄につけ」


 なんとかこの場を取り繕うとするボリフェノール侯爵を、俺は容赦なく断罪する。


「ぐ……っ」


「容疑は国家反逆罪だ。それと無辜むこの市民の拉致監禁、および脅迫と強要。証人は国王である俺自身、言い逃れは許さない」


「……」


「なんだ? 急に黙り込んでどうした? なにかこの場で言っておきたいことはないのか? 今なら直接聞いてやれるぞ? 残念ながら何を言おうが罪が軽くなることはないけどな」


「……もはやこれまでか」

 ボリフェノール侯爵が低い声で唸るようにつぶやいた。


「そうか、覚悟を決めたか」


「ええ、そうですな……ワシは腹をくくりましたぞ……」

「ぼ、ボリフェノール様……」


 しかしそこでボリフェノール侯爵は勢いよく立ち上がると、大きな声をあげた。


曲者くせものじゃ! 者ども出あえ! 出あえ!」


 すぐに屋敷のあちらこちらから剣を持った浪人たちが現れ出でる。

 その数は優に100人を超えていた。


 中には見たことのある奴らもいる。

 ミズハを拉致しようとしたダーク・コンドルのゴロツキどもだ。


 なるほどなるほど。

 ダーク・コンドルを飼っていたのはボリフェノール侯爵だったってわけだ。


「おいおい、よくこれだけの数のゴロツキ浪人を、バレないように隠れて飼っていたもんだな? つまりそれができるくらいに不正に蓄財をしていたってことなんだろうけど」


 この屋敷にしても、超越魔竜イビルナークの襲撃を受けた後とはとても思えないほどに豪勢だしな。

 よほど金が有り余っているに違いない。


「くくっ、いつまでその余裕の態度を続けられますかな?」


「で、どういうつもりなんだボリフェノール? まさか国王であるこの俺に刃を向けようってのか?」


「どういうつもりもなにも……! 聞け、皆の者! こやつはクロウ国王陛下の名を語る不届き者じゃ! 決して本物のクロウ国王陛下ではない! 構わん、斬って捨てい!」


 シャキン、シャキン、シャキシャキン。

 ボリフェノール侯爵の言葉を受けた浪人どもがいっせいに剣を抜く。


「王の名を語るニセモノを成敗する。なるほど、そういう理屈か」

「くくっ、左様にござります」


 盗人にも三分の理ってことわざもあるが、一応筋は通ってるな。

 だけど、


「俺は国王である前に勇者だぞ? 忘れたのか?」


「まさか。ですがダーク・コンドルは凄腕ぞろい。いくら歴代最強クラスの勇者と言われたあなたといえども、この数を相手にしては無事ではいられないだろうて!」


「はぁ……勇者も舐められたもんだな」


 俺はため息をつきながら聖剣を抜いた。

 俺の戦意に反応して聖剣が薄っすらと光りはじめる。


「おいお前たち! そいつを殺した者には金貨100枚を即金でくれてやる! 金貨100枚じゃぞ! さあかかれ! クロウ国王陛下の名を語る不届き者を即刻始末せよ!!」


「おいおい、マジかよ!」

「ウホッ、金貨100枚だってよ!」

「ヒャッハー! 今夜はフィーバーだぜ!」

「金貨100枚もあれば一生遊んで暮らせるぞ!」

「金貨100枚の権利は俺が貰う! 死ねい!」

「馬鹿野郎、金貨100枚は俺のもんだ!」

「くそ、邪魔すんなボケ!」


 金につられて目の色を変えたゴロツキ浪人どもが、剣を振り上げて俺のところへ一斉に群がってくる!


「クロノスケ様! 危ない!!」

 俺の背後でミズハの悲鳴が響き渡った。


 ――だがしかし。


「刃じゃなくて面で打つから死にはしないはずだけど、当たり所が悪かったらあの世で諦めてくれな? 俺は細かい力の制御が苦手だからさ――ハァッ!!」


 最初に群がってきた10人ほどのゴロツキ浪人どもを、俺は聖剣のたった一振りで吹き飛ばした。

 ゴロツキ浪人どもは壁に当たって崩れ落ちると、そのまま全員気絶して動かなくなる。


「「「「「…………」」」」」


 沈黙が支配する中庭で、俺は取り囲むゴロツキ浪人どもに向かって不敵に微笑んだ。


「さぁどうした? まだ始まったばかりだぜ?」

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