第91話 デデン!「話は全て聞かせてもらったぞ!」

~~クロウSIDE~~


「――なるほど、そういう悪だくみだったのか」

 俺は聞き耳を立てていた物影でうんうんと頷いた。


 前王家の血を引くミズハを真のセントフィリア女王として無理やり擁立し、内乱を起こして俺に譲位させてセントフィリア王国を手に入れる。

 こいつらは一国を揺るがす壮大な策謀を張り巡らせていたのだ。


 そのためにミズハを拉致しようとしたけど、俺が介入したせいで失敗したので、ならばと今度はばあやをさらってミズハをおびき寄せようとしたのだ。


「それにしても、まさかミズハが前セントフィリア王家の血を引いていたなんてな」


 どおりで立ち居振る舞いに気品があるわけだ。

 そして話は全部繋がったな。

 もうこれ以上こいつらの不快極まりない話を聞いてやる義理もないだろう。


 ってなわけで証拠もそろったことだし、そろそろ出て行くか。


「果たしてそう上手くいくかな?」

 俺はまず、戦場でもよく通る勇者ボイスで語り掛けると、


「な、なんじゃっ!?」

「だれだ!」


「人を人とも思わぬ悪党どもめ! 話は全て聞かせてもらったぞ!」


 デデン!

 俺は満を持して登場した!


 登場とともに投げつけた2つの肉饅頭が、ボリフェノール侯爵とエチゴ屋の頭に当たって、2人の頭をどろりと肉汁まみれにする。


 え?

 そもそもなんでここに俺がいるかって?

 玄関でミズハを見送ったんじゃなかったのかって?


 そんなもん、ミズハが後ろを振り返らなくなったら速攻でこっそり後を付けたに決まってるだろ?

 当たり前じゃないか。

 女の子にあんな顔をさせて一人で行かせたら男が廃るっての。


 だいたい俺は勇者なんだからな?

 困っている人を助けるのが勇者である俺の役目だ(ドヤァ!


 もちろん屋敷に入った途端に捕まって軟禁されていたミズハと、ミズハをおびき寄せるために牢に入れられていた婆やは、とっくの昔に助け出している。

 今は俺のすぐそばで2人で抱き合っていた。


「貴様、なにやつじゃ! 勝手に屋敷に入り込んだあげく、肉饅頭をぶつけるとは無礼千万ぞ!」


「ここを誰のお屋敷だと心得ておる! 先の右大臣ボリフェノール侯爵様のお屋敷であるぞ!」


「知ってるよ。門の横にそう書いてあったしな」


「なにが『知ってるよ』じゃ! 侯爵家の屋敷に勝手に忍び込んだ上に肉饅頭を投げつけるとは! 打ち首にしてくれるわ、この無礼者のうつけネズミめが!」


「むむっ!? こ、侯爵様あれをご覧ください! ミズハと婆やですぞ!」

「なにぃっ!?」


「貴様、牢に閉じ込めて精鋭どもに見張らせておったというのに、いったいどうやって連れ出したのだ!」


 頭を肉汁まみれにされた上にミズハと婆やを取り返されて怒り心頭の2人に、俺は不敵に笑いながら言った。


「なんだ、あいつらって精鋭だったんだな。秒殺したから分からなかったよ。それと無礼なのはそっちだろうがボリフェノール。俺は心が広いが、言葉遣いには気を付けろよ?」


「このワシを呼び捨てにしただと? 何様のつもりだ貴様!」


「何様って言われると、まぁ王様なんだけどさ?」

「はぁ? 王様だと? 浪人風情が何を言っておるのだ」


「おいおい前右大臣ボリフェノール侯爵。俺だよ俺。金勘定に目がくらんで、よもやあるじの顔を見忘れたのか? 勇者時代に何度か顔を合わせたことがあったよな?」


「ワシと顔を合わせたことがあるじゃと? 何を血迷ったことを言って――む、勇者とな? 勇者? …………はふぁああっ!? ゆ、勇者クロウ!? いえ、く、クロウ国王陛下!」


「え? 国王陛下ですって?」


 慌てふためくボリフェノール卿に、エチゴ屋の主人がポカンとした顔を向ける。


「ば、バカ者! 何を阿呆な顔をしておるか! このお方はクロウ国王陛下その人じゃ!」

「クロウ国王陛下? はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」


 よほど驚いたのか、目をまんまるに見開いたエチゴ屋の主人の肩がビクンと大きく跳ねた。


「えっとこういう時なんて言えばいいんだっけ? 余の前で頭が高いぞ――って言えばいいんだっけか?」


「「は、ははぁ!」」

 俺の言葉に、2人が慌てて床に平伏した。

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