第93話「これにて一件落着!」

 圧倒的な力を見せつけるとともに、俺は悠然と聖剣を構えなおした。

 今ので力の差ははっきりと分かったはずだ。


 しかし大金に目がくらんだのか、自分ならば倒せるとでも思っているのか。

 はたまたその両方か。


「ビビってられっかよ!」

「なにせ金貨100枚だ!」

「行くゼェ!」

「うぉぉぉっ!」

「でやぁぁぁ!」


 ゴロツキ浪人どもは、構わず俺へと向かってくる。


 そんな馬鹿どもを、飛んで火にいる夏の虫のごとく俺は片っ端からシバキ倒していった。


「ぐぁぁっ!」

「ひぎぃ!?」

「おぶぇぁっ!」

「ぎいやぁ!?」

「あばばっ!」

「ぷべる!」


 聖剣でぶっ叩かれたゴロツキ浪人どもが次から次へとピュンピュンピュンピュン吹っ飛んでいく。


「隙有り! 死ねぇっ! ――グファッ!?」

 時に背後からの不意打ちの突きを、くるりと反転してかわすと、反転した動きの延長でカウンター一閃を鳩尾に叩き込んでぶっ飛ばし。


 キンキンキンキンキンキンキンキン!


「なっ、俺の神速8連斬りが全部受けとめられただと!?」


「神速? まぁまぁ速いけど、さすがに神速は言い過ぎだろ……」


「グハァ!?」

 時に敢えて剣を全部受けてやってから、しかし容赦なく吹き飛ばす。


「なっ!?」

「そんなばかな!?」


 俺の無双っぷりを見て、最初は勝ち誇っていたボリフェノール卿とエチゴ屋の主人は、口をあんぐりと開けて固まっていた。


 そんな悪人2人の前で、

「とりあえずとっととカタを付けるか」


 ドカ、バキ、グシャ。

 ドカ、バキ、グシャ。

 ドカバキグシャドカバキグシャドカバキグシャ――……。


 100人を超えるダーク・コンドルどもを全員行動不能にするのに、そうたいした時間はかからなかった。


「ば、ばかな……何の悪夢なのじゃこれは……」

「なっ、あひっ……」


 完全に腰を抜かせてしまって逃げることもできず、2人して肩を寄せ合ってガクブル震えるボリフェノール卿とエチゴ屋主人に、俺はゆっくりと近づいていく。


「あのさ? 聖剣を持った勇者を舐めすぎじゃないか? 俺が戦ってきたのはSSランクの魔獣の群れや、SSSランクの魔王だったり、SSSSランクの超越魔竜イビルナークなんだぞ?」


 こんなゴロツキ浪人なんざ、1000人いようが2000人いようが軽くあしらえるんだが?


 まったく、これだから戦場に出ないで命令するだけのやつらは。

 身体張って戦ってる前線の人間を過小評価し過ぎなんだよ。


 あんまり勇者を舐めんなよ?


「く、来るな! 来るなぁ!!」

「ひいいぃっ! お、お助けを! なにとぞ命だけはお助けを!」


「あいつらはまだ若いし、矯正施設で徹底して矯正しつつ手に職をつけさせたら、まだ復興のための労働力として使えそうだけどさ。お前らみたいな悪さばっかり考えてるような社会の屑は、もうこれ生かしておく必要はないよな?」


 俺は2人の目の前まで行くと、聖剣を大きくこれ見よがしに振りかぶった。


「ゆ、ゆゆゆゆ許して……お願い、許してください!」

「あっ、あっ、ああっ……」


「じゃあなお二人さん。あの世でも仲良く己の罪を懺悔ざんげするんだな」


「あ、あっ、あ、ああぁぁぁぁぁ――!」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ――!!」


 俺が振りかぶった聖剣を振り下ろすと、刃が触れる前に2人は白目をむいて気絶していた。

 その股間からはじょろじょろと生暖かいものが漏れ出でる。


 聖剣は振り下ろした途中で止まっていた。

 最初から殺す気なんてありはしない。

 少し脅しただけだ。


 聖剣はこんな奴らを殺すためにあるんじゃないからな。

 聖剣も勇者も、世界の危機を救うために存在しているのだから。


「なんだ気絶して失禁したのかよ。あくどいことばかりしてる割に、まったく肝が座ってないなぁ」


 さてと、この後は。

 とりあえずは衛兵を呼んで捕縛させるとして。


 エチゴ屋は個人の資産は没収のうえ死罪。事業はどこかが引き継ぐだろう。

 侯爵家はお取り潰し(爵位返上)かな。


 そのためにも、まずは王宮に帰ったらこいつらを処断するために、俺が全権を与えた特別査察チームを編成しないとだ。


 悪の親玉は捕まえたんだ。

 あとはこいつらを徹底して尋問して、悪事に手を染めたお仲間を根こそぎふんじばってやるだけだ。


「ってわけでミズハ、もうこれで心配はいらない。セントフィリア国王クロウ=セントフィリア=アサミヤの名に懸けて後の始末は任せてくれ」


 俺は傷一つついていない聖剣を鞘に納めると、ミズハを安心させるように笑顔を向けた。


「まさかクロノスケ様がクロウ国王陛下だったなんて……はっ!? 知らぬこととはいえ、数々のご無礼を働いてしまい誠に申し訳ございませんでした。どうかお許しを!」

「お許しを!」


 ミズハと婆やが、庭の地面に頭をこすりつけるように平伏した。

 

「ああもう、そう言うのはやめてくれ。なにせミズハといる時の俺は、王宮勤めの訳有り騎士クロノスケなんだから。ほら2人とも立って立って」


「で、ですが、国王陛下に対してそのような無礼な振る舞いは――」


「ミズハも今は平民とはいえ前国王の血を引いているんだろ? ってことは実質王家の人間だろ? なら実は王様だけど、今は訳有り騎士の振りをしている俺とは対等なんじゃないか?」


「それはいささか違うのではないかと思いますが……」


「うーん。変にかしこまられるより、出会った頃みたいに普通に接してくれる方が俺は嬉しいんだけどなぁ。なにせ普段は王様王様言われてばっかりだからさ。あれ疲れるんだよほんと」


 今も変わらず普通に接してくれるのは、アリスベルとフィオナ、リヨン、ストラスブールくらいだ。


「ええっと……」


「ならこうしよう。ミズハは以前と同じように俺と接するように。これは婆やも同じだ。これは王命であり異論は認めない。これでどうだ?」


「もう、意外と強引なのですね……クロノスケ様は」

「だって王様だしな。これくらいの無理は許されるだろ?」


 俺がいたずらっぽく笑うと、


「まったくですね。ふふっ」

 ミズハは惚れ惚れするくらいに上品に微笑んだのだった。


 なるほど、これは王女の微笑みだったわけだ。

 そりゃ気品を感じて当然だよな。


「そういうわけで、これにて一件落着!」


 俺は今後の後始末が終わるまでの安全確保のために、ミズハと婆やを連れて意気揚々と王宮に引き上げたのだった。

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