第84話 ダーク・コンドル
「そう、俺は王都の復興を、王たる自分自身の目で直に確かめているのであって、つまりこれはマストで必要な行為なんだ」
これはもはや「王の義務」であると言っても過言ではないだろう。
「だから決して楽しく食べ遊び歩いているわけじゃないんだ――って言ったら逆に怒りの火に油を注いじゃうよな、間違いなく。やめておこう……」
最近のアリスベルは怒るとすぐにえっち禁止令を発動して、俺を夜の兵糧攻めにしてくるから……。
フィオナに泣きついても、裏でしっかりと手を回されちゃってるし。
この前なんかえっち禁止令を破って夜にフィオナの部屋に遊びに行ったら、アリスベルがにっこり笑顔で待ち構えていたからな……。
そんなことを考えながら歩いていると、俺はいつの間にか人通りが少ない場所へとやってきていた。
「この辺りはまだ復興がほとんど進んでいないんだな」
ガレキも撤去されきっておらず、道には所どころに大穴が開いていてガタガタのボコボコ、家は崩れかけたままだった。
実は今回、超越魔竜イビルナークによる破壊の規模があまりに大きすぎたため、王都の区画を区切って優先順位の高いところから集中的に復興事業を行っている。
そのせいで優先復興地区から漏れた一部地区はまだまだ復興の手が入っておらず、こうして廃墟のままで放置されてしまっているのだ。
「そういうやり方をしているってのは報告を受けてたし、数字上は予定よりも早く復興が進んでいるって話で安心してたけど。でもやっぱりここみたいに復興の手が入っていない地区はまだまだたくさんあるんだ」
これを見れただけでも今日抜け出した甲斐があったと思う。
「これからも可能な限り復興のペースを上げて行かないとな……って言っても俺はそういうのには詳しくないから、詳しい人間が決めた計画書にハンコを押すかサインをするしかできないんだけど…………むっ!?」
その時、俺のスキル『勇者センサー』が少し先であがった小さな悲鳴をとらえた。
俺は勇者なので当然、助けを呼ぶ声を感知するスキルを持っている。
普通なら、遠く聞こえる喧噪や復興作業の
さらに俺は複数の低俗なゴロツキどもの気配も感じとっていた。
俺は勇者なのでスキル『勇者スカウター』で、悪の気配を感じることも当然余裕であるからして。
「どうやら不埒な
俺は全身に勇者の力を巡らせると、超特急で現場へと急行した。
道がガタガタだろうが、ガレキが撤去されてなかろうが、勇者の力を解放した俺の前では平坦な道と変わらない。
最短ルートで向かった先にいたのは1人の少女と、その女の子を建物の形がかろうじて残っている廃墟の壁際へと追い詰めた8人のゴロツキどもだった。
「げへへへ、やっと捕まえたぜお嬢ちゃん」
「は、放してください!」
「んーどうしよっかなぁ……やっぱりやーめた」
「ぎゃははははは!」
ゴロツキの一人が少女の腕を掴んでいて、そいつも含めてゴロツキどもは皆が皆、下卑たにやつき顔をしている。
どこからどう見てもゴロツキどもが悪党なんで、いきなりブッ倒しても良かったんだけど。
なにせ今の俺は国王という民を治める特別な立場にあるのだ。
正直このゴロツキどもと会話するのは時間の無駄にしか思えない。
しかしこんなゴロツキ一同であっても一応国民は国民なんだろうから。
俺は王として言い分くらいは聞いてやることにした。
「おいおい、そこの君たち。その子が嫌がってるように見えるんだけど、まずは手を離してあげないか? 暴力は良くないよ」
俺はとても丁寧にお願いをした。
するとゴロツキどもが一斉に俺に向き直る。
「あ? なんだてめえは?」
「つーか、さっきまで誰もいなかったのに、こいつどこから湧いてきやがったんだ?」
「おいおいスカしたにーちゃんよぉ? いきなり出てきて何カッコつけてんだ? 俺ら舐めてんのかよ?」
「おらおら、この入れ墨が見えないのか?」
「俺たちはあのダーク・コンドルの構成員なんだぜ?」
「痛い目にあいたくなけりゃとっとと失せな。俺たちゃ、これからこの子とお楽しみなんだからよぉ」
「おいおい、手を出したらお頭に怒られるぞ?」
「お前、こんな上玉相手に何もせずにいられるかよ? ちょっと味見するくらい問題ないっての」
「そりゃそうだな」
「俺なんかさっきからずっとちんこぎんぎんだぜ」
「ギャハハハハハッ!」
ああうん。
そうだよな、お前らはそういう反応するよな。
うん、分かってたよ。
悪いのはこんな無駄なことを、わざわざしようとした俺の方だ。
それと「あのダーク・コンドル」とか言われても知らないんだよなぁ。
半グレ集団かなにかか?
控えめに言って社会のゴミでしかなさそうだから、なるべく早いうちに大元から潰しておこうと俺は心に誓った。
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