第85話 「やっぱりあなたも変態なのですか!? ヒィィっ……! 婆や、助けてっ!」

「はぁ……お前らみたいなのに聞いた俺が馬鹿だったよ。で、そっちの君はこいつらの知り合い? 合意があってのそういう特殊なプレイ中?」


「ち、違いますわ! いきなりこの人たちに襲われたんですの! だいたい特殊なプレイって、なにをおっしゃっているんですかこの変態!」


「だよなぁ」

「だよなぁって、やっぱりあなたも変態なのですか!? ヒィィっ……! ばあや、助けてっ!」


「いやいや違うから。君が襲われてるって状況に納得しただけだから。決して俺は変態じゃないからな? ってなわけで――」


 そう言い終えた瞬間にはもう、俺は少女の腕を掴んでいたゴロツキAに鋭いボディブローをお見舞いしていた。


「ガハっ!?」

 女の子を掴んでいた手からガクッと力が抜け、泡を吹きながら白目をむいて崩れ落ちるゴロツキAには目もくれず、


「大丈夫だった? 怪我はない? 手首がちょっと赤くなってるけど痛くはないか?」

 俺は女の子が無事かどうかを確認する。


「あ、えっと、はい。おかげさまでまだ何もされておりませんが……え、今いったい何が……」

 まばたきをする間もない刹那の一瞬で行われた制圧劇に、女の子は呆気にとられているようだった。


 でも、おや?

 今さらながらに気付いたけど、すごく可愛い女の子だな。

 目鼻立ちがはっきりしていて、腰まであるつやつやの黒髪はまるで絹糸のようにさらさらだ。


 一見質素な町娘風の服も、よく見るとすごく仕立てがいい。

 立ち居振る舞いにもどことなく気品が感じられるし、貴族の娘さんかいいとこの商人のお嬢さんかな?

 でも敢えて高貴さを隠している――そんな風に俺には感じられた。


 供回りはいないし、もしかしたらお忍びで街に遊びに出たところを悪い奴らに目を付けられてしまったのかもしれないな。


「ならよかった。じゃあそのままじっとこの場所で動かないでくれな。残りのゴロツキ――ダーク・コンドルだっけ?――をまとめて処分するから」


 俺は女の子にキメッキメの勇者スマイルをしつつ、親指をグッと立てて頼れる男アピールをしっかりしてから、残るゴロツキ7人に向き直った。


「てめぇよくもやりやがったな!」

「俺らダーク・コンドルにケンカを売ったことを後悔させてやるぜ!」

「けちょんけちょんにしてやるっての!」

「全員で囲め、一気に行くぞ!」

「やっちまえ!」


「危ないですのっ!」

 ナイフや鉄の棒、メリケンサックといった携帯武器を取り出して一斉に襲いかかってきたゴロツキ7人を見て、女の子が悲鳴を上げる。


 しかし俺はゴロツキどもを目にも止まらぬ速さでぶちのめした。

 さっきの奴と同じく今度も瞬殺だった。


 もちろんこんなゴロツキ程度を相手にするのにいちいち聖剣を抜くまでもない。

 拳だけで十分だ。


 逆に一斉にかかってきてくれたおかげで早く済んだまである。

 勇者とゴロツキとでは、それくらいに格が違い過ぎるのであるからして。


 と言っても殺したわけではない。

 せいぜい当たり所が悪かった奴が骨折したくらいだろう。


「いてぇよぉ……あばらにヒビ入ってるぞこれ……」

「なんだこいつマジ強ぇぇ……いてぇ……」

「全然動きが見えなかった……何者だこいつ」

「俺の手、折れてる……ううっ……」


 ゴロツキどもは地面に転がってうめき声をあげている。


「……はい?」

 そして俺の圧倒的なまでの強さをまたもや目の当たりにした女の子は、再び呆気にとられた声をあげた。

 さっきよりもはるかにポカーンとした顔をしている。


「まったくなにがダーク・コンドルだよ。名前負けし過ぎだろ。準備運動にもならないっての。ひよこクラブにでも改名したらどうだ?」


「えっと、あの、あなた様はいったい……」


「俺か? 俺はクロ――」


 クロウと言いかけて、俺はとっさに口をつぐんだ。

 国王と同じ名前だと本物だとバレるかもしれない。

 せっかく王宮を抜け出したっていうのにそれは面倒だな……。


「クロ……?」

「あー、えっと……クロノスケだ」

 俺はとっさに思い付いた適当な名前を口にした。

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