第83話 王宮を抜け出して
「ま、ざっとこんなもんよ。ふふん、2度も世界を救った勇者を舐めんなよ?」
王宮の厳重な警備(外部ではなく明らかに俺が逃げないように内部を重点的に見張っている)を、歴戦の勇者の直感&経験を頼りに抜け出した俺は、今は王都の商業区にいた。
東方の島国にいるとされる忍者のごとく時に天井に張り付き、時に物陰で息をひそめて巡回中の衛兵をやり過ごし、時に柵や壁をヒョイと乗り越える。
それだけで物語ができてしまうようなミニ冒険譚を終えた俺は、意気揚々と歩き出した。
「こうやって平民の服に着替えてしまえば、誰も俺が国王クロウ=アサミヤとは思わないだろうな。ふふふふん♪」
聖剣もちゃんと鞘ごと布を巻きつけてそうと分からなくしてあるので、警備兵に見られても聖剣の所持者=元勇者=脱走した現国王と芋づる式で発覚する心配もない。
しかも『失せ物探しの術』で俺をピンポイントで探せるストラスブールが、地方に出張に行って王宮にいないタイミングを狙ったのだ。
「みんなに心配をかけないように『ちょっと街で遊んできます。探さないでください』って書き置きもちゃんと残してきたし、準備は万端だ」
アリスベルに後でめちゃくちゃ怒られるかもしれないけど、
「王宮の中はいい加減息が詰まるんだよな。たまには街で遊ぶくらいさせてくれたっていいだろうに。ってなわけで、さーてと、まずは『屋台通り』にでも行って景気よく食べ歩きでもするか」
俺は商業区の中でもお昼を食べる人で特にごった返している「屋台通り」に行くと、適当に目についた食べ物屋台であれこれ買って食べ始めた。
この「屋台通り」は建物が破壊されて営業できない飲食店を救済しつつ、王都復興に汗を流す人々の胃袋をまかなうため、アリスベルの発案で臨時で場所を提供して作らせたんだけど。
今では「ここに行けば何でも食べられる場所」として、新王都の名物みたいになっていた。
この前の復興対策会議でも「屋台通り」はこのまま観光地として残そうみたいな話が取りざたされている。
ちなみに俺は視察の時に一度しか行ったことがなく、こうして2度目の機会を
凄まじいまでの料理の技巧を誇る王宮料理人たちには申し訳ないんだけど、王宮のオサレな料理をマナーを気にしながらゆったり食べるのは、ちょっと俺の性格的に合わないんだよな。
っていうか俺は庶民をやってた時期の方が長いから、味覚が完全に庶民感覚っていうか。
それはさておき。
「はぐはぐ……、うん、甘じょっぱくて旨い!」
この前アリスベルから貰ったばかりのお小遣い(莫大な王都復興費用捻出のため、俺のお小遣いはアリスベルによって厳しく管理されている)で、まずは焼きトウモロコシを軽くいただいてから、
「やっぱ肉には塩だよな。んー、炭火の香ばしい匂いが口の中に充満する……! これだよこれ!」
塩を振ったシンプル焼き鳥を頬張る。
「肉饅頭発見! あ、これ王都で一番人気だったフィリフィリ亭の肉饅頭じゃん。良かった、職人さんは無事だったんだな。ってわけでマスト買いだ。すみませーん、食べ歩くのを1個、お土産に2個お願いしまーす」
せっかくだからアリスベルとフィオナにも買って帰ってあげよう。
そしたらちょっと怒られ度合いが下がるかもしれないし(とても浅はかな期待)。
おみやげの肉饅頭の入った袋を聖剣と一緒に腰につるしてから、俺は食べ歩き用の肉饅頭にかぶりついた。
「はふはふ……、熱々の肉汁がブワワっと染み出してくる……! やっぱ肉饅頭はフィリフィリ亭だよなぁ」
俺は肉饅頭をぺろりと平らげた。
「おっ、ベビーカステラか。これ、時々無性に食べたくなるんだよなぁ。小腹が空いた時にちょうどいいから、間食として王宮でも出してくれたらいいのに」
王宮ではまず出てこない、いかにも安っぽいベビーカステラをポイポイと口に入れていく。
「今日は天気が良くて暑いし、少しのどが渇いたな……ちょうどいいところに梅サワーがあるじゃん、あれにしよっと」
ノンアルコールの梅サワーをごくごくといただく。
甘みと酸味がほどよいバランスの梅サワーが、口の中をさっぱりとさせてくれた。
俺はあれこれ食べ歩きながら久しぶりの外歩きを満喫していた。
その後「屋台通り」を外れて適当に思いつくままに足を向けてみる。
俺が戴冠して王になった頃と比べて街のいたるところに活気が溢れていて、ただ歩いているだけで元気を分けてもらえそうだ。
「うんうん、超越魔竜イビルナークによって壊滅的な破壊を被ったセントフィリア王都の復興は、極めて順調みたいだな」
会議で聞いたり紙の報告書で見るだけでは分からない、復興と国民生活の生の姿がそこにはあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます