第65話 絶望的な状況
「かは――っ……」
背中と腰を激しく強打したことで一瞬、俺は息が詰まってしまう。
「おにーさんっ!」
遠くにアリスベルの悲鳴が聞こえた。
口の中を切ったのか、それとも内臓にダメージを受けてしまったのか。
口の中にぬるりとした血が充満する。
「げほっ、ごほっ……くそっ、なんだ今のスピード。ほとんど見えなかったぞ」
長年の腰痛生活から思わず「腰から落ちたけど大丈夫か?」と不安になったものの、昨晩のアリスベルの献身的なマッサージのおかげもあって、かなり強打したにもかかわらず俺の腰は問題なく動いてくれる。
「ほんと、アリスベルには感謝してもしきれないな」
すぐに立ち上がって『破邪の聖剣』を構えた俺の前で、再び超越魔竜イビルナークの姿がユラリと揺らめいた。
「く――っ! このっ!」
文字通り目にも止まらぬその攻撃を、しかし俺はなんとかガードして受け流すことに成功する。
もちろん超越魔竜イビルナークの動きが見えているわけではない。
1回目の突撃から、防御のタイミングを勘で計って防御しただけだ。
魔王軍との激戦を戦い抜いた俺の歴戦の勘が、なんとか受け流すことを成功させてくれたのだ。
「伊達に勇者パーティで何年もフロントアタッカーとして戦い続けてないからな!」
だけどこのままじゃじり貧だ。
いつか防御しきれなくなる――!
超越魔竜イビルナークが三度目の突撃を行った。
俺の防御がわずかにずれ、受け流しきれずに大きな衝撃を受けてはね飛ばされそうになる。
「こなくそ!」
しかし俺はたたらを踏んでなんとかバランスをとると、その三度目の攻撃もどうにか受け流した。
「ぐ……っ、変な受け方をしたせいで『破邪の聖剣』を持つ手が折れそうだ――!」
強引に受け流したせいで、手がじんじんとしびれている。
『破邪の聖剣』を取り落としてしまいそうだった。
シンプルかつ甚大な威力の突撃の前には、こうやってかろうじて防御に成功しても、少しずつ疲労やダメージを蓄積させられてしまう。
もちろん防御をミスれば即死するという精神的なプレッシャーも大きい。
この先、何回も受けきることはできそうになかった。
そしてそれは超越魔竜イビルナークも理解しているようで、何度も何度も突撃を繰り返しては、俺の体力と精神力をジリジリと削ってくるのだ。
俺は時に跳ね飛ばされそうになり、時になんとか受け流し、どうにかこうにか凌ぎながら打開策を見出そうとしたものの、
「だめだ、このままだと負ける――!」
見えないほどに速く、受ければ骨が折れそうなほどに重く、受け損なえば即死するほどに高威力な巨体による突進という超質量攻撃への打開策は、そうは簡単に見つかりはしなかった。
そして何度も突進を受ける中で、ついに俺は防御に失敗してしまう。
ほとんど直撃のような痛打を受けて、空中に跳ね飛ばされてしまったのだ。
「かハ――ッ!!」
錐もみしながら跳ね上げられた俺に、超越魔竜イビルナークが追撃を敢行する!
だめだ、速すぎる。
とても反応できない――!
超越魔竜イビルナークは空中で巨大な尻尾を振ると、俺を地面へと容赦なく叩き落した。
「ゴホ――ッ!」
勢いそのままに激しく地面にたたきつけられた俺は、意識が飛びそうなほどの衝撃とともに大地に大きなクレーターを形作る。
「あぐ、この……野郎……っ! さっきのお返しってわけか――!」
やられたらやり返す。
さっき地面にたたき落とされた意趣返しをしてきやがったのだ!
かなりのダメージを受けた俺がよろよろと身体を起こすと、超越魔竜イビルナークはどうだと言わんばかりに俺を睥睨していた。
その顔からは、己の勝利を確信して完全に慢心しているのが見て取れる。
「はぁ、はぁ……得意げにムカつく顔してるってのは、相手がドラゴンでもわかるもんだな。今に見てろこんにゃろう」
俺は自分の心を鼓舞するように軽口を言うと、額の血をぬぐってもう一度『破邪の聖剣』を構えなおした。
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