第64話 SSSS――クアッド・エス

 身の毛もよだつような禍々しい漆黒の光の柱は、地面をえぐりながら驀進すると、俺の背後にあった古代神殿遺跡の建造物跡を軽々と数個ぶち抜いて塵へと変えた。


 一直線に地面ごとえぐって伸びた暗黒光の威力は、すさまじいの一言に尽きる。


「あっぶねぇ!? そうか、これが神をも滅するダークネス・ブレスか。っていうかさっきの俺の渾身の一撃を喰らっても、まだこれだけやり返せるのかよ。馬鹿みたいな耐久力だなこの羽根つきトカゲが!」


 グルルルルルルルッッ!!


 超越魔竜イビルナークは獰猛に唸りながら立ち上がると、俺を憎々しそうに睨みつけた。

 どうやら人間ごときに地面にたたき落とされたのが逆鱗に触れたみたいだな。


 そして接近戦は不利と見たのか、超越魔竜イビルナークは遠距離からの強力なブレス攻撃に切り替えてきたのだ。


 だが!


「悪いがどれだけ威力が高くても! 当たらなければどうということはないんだよ!」


 俺は連続で放たれるダークネス・ブレスを余裕をもって回避する。


 ドラゴンのブレスは必ず口から放たれる。

 しかも顔の正面方向に向かってしか撃てないので、射線が極めて読みやすいのだ。


「格下相手にはその超絶パワーでゴリ押せば何とかなったんだろうが、あいにくと俺はSSSランクの勇者なんでな! パワー負けはしないし、速さだって互角以上だ。過去にドラゴンと戦ったこともある。だからお前らドラゴンのブレスの弱点もよくよく知り尽くしてるんだぜ!」


 俺はやたらめったら撃ちまくってくるダークネス・ブレスを回避しながら距離を詰めると、ブレスの撃ち終わりを狙って強力な連続攻撃をぶち当てる。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」


 『破邪の聖剣』に散々に打ちのめされて、ついに堪えきれなくなったのか超越魔竜イビルナークががくんと膝をついた。


 いける、あと少し!

 このまま押し込めば俺の勝ちだ――!


 勝利への道筋が見えた――そう思った時だった。


「なん……だと……?」


 突如として超越魔竜イビルナークの身体から、禍々しい漆黒のオーラが立ち昇ったかと思うと、その力がぐんぐん増し始めたのだ――!


 『勇者スカウター』が即座に分析を始めて、パワーアップした超越魔竜イビルナークの戦闘力を俺に伝えてきたんだけど――、


「そんな、ばかな――」


 『勇者スカウター』が示すそのランクを、俺はにわかには信じられないでいた。


 だってそれはないはずだ――!


「SSSS――クアッド・エスランクだと……!? 馬鹿な、ありえない!」


 暴虐の限りを尽くした魔王ですらSSSトリプル・エスランクだったのだ。

 勇者である俺も同じくSSSランク。


 つまり最強存在の証がSSSランクなのだ。


 なのにSSSSクアッド・エスランクだなんて、そんなもんありえないだろうが――!


 同時に俺は、今さらながらに気付いてしまった。

 超越魔竜イビルナークがパワーアップした原因についてだ。


 さっきからやたらめったら撃ちまくっていたダークネス・ブレス。

 あれはおそらく強化のためのなんらかの儀式だったのだ。


 俺が『破邪の神楽』で勇者パワーを増大させるのと同じように、あれが超越魔竜イビルナークがSSSSランクに超越強化するための儀式だったのだ――!


 俺が内心「やられた!」と思った瞬間。

 フッと超越魔竜イビルナークの姿が陽炎かげろうのように揺らめいた。


 そしてそう認識した時にはもう既に、俺は激しく跳ね飛ばされてしまっていたのだ――!


「くふ――っ!」


 猛烈な衝撃が俺の身体を襲う。


 視覚に干渉されたわけではなかった。


 俺をSSSランクまでパワーアップさせる勇者スキル『勇者の加護』は、戦闘能力の向上だけでなく、幻術や幻聴などの幻惑系のスキル全てを完全無効化してくれる。


 つまり俺は、超越魔竜イビルナークのあまりの速さにその動きを視認しきれず、残像が揺らめいたかのように見えてしまったのだ。


 それでも意識するよりも先に反射的に『破邪の聖剣』を構えたことで、かろうじて致命的な直撃だけは回避していた。


「ぐは――っ!」


 もちろん直撃をどうにか避けただけだ。


 巨大な身体を猛スピードでぶつけるという超絶質量攻撃によって、俺は20メートル以上も吹き飛ばされて背中から地面に落ち、そのままごろごろと地面を転がされていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る