第50話 フィオナとクロウとアリスベル
「いきなり顔を隠してどうしたんだ?」
俺が尋ねると、
「いえあの、勇者様と裸で抱き合っているのが恥ずかしくて……」
フィオナは顔を隠しながら小声でつぶやいた。
「でも昨日の夜はもっと恥ずかしいことをしたような……」
「ふぁっ!? それはその、先に勇者様が恥ずかしいことをさせてきたからであってですね!?」
フィオナはガバッと布団から顔を出すと、抗議するように言ってくる。
「隣の部屋に声が漏れないように、必死に声を押し殺すフィオナはすごく可愛かったよ」
「わかっていたのにわざと激しく突いて、私に声を出させようとしてましたんですか? 勇者様、酷いです」
「声を我慢するフィオナを見てたら、なんかこうイジメたくなっちゃって……」
声を必死に我慢するフィオナは、ほんっとうに可愛かったんだよ。
「まったく、アリスベルさんの言うとおりでした。勇者様はベッドの上ではえっちな変態勇者様です」
「うぐ……」
1ミリたりとも否定できないところがつらい。
「しかも途中で私に鎧を着せましたよね? しかも一部だけ。一部だけ鎧を装備しての、半脱ぎ鎧プレイをさせましたよね?」
「む、むむ……」
「戦闘でまとうための鎧を着てえっちをしてしまうなんて、私はなんと騎士道に反する行為をしてしまったのでしょう……」
フィオナが己の罪を戒告室で悔いる懺悔人のような切ない声で言った。
「ごめんな、もうしないから」
俺は調子に乗ってフィオナの騎士道を汚して(いろんな意味で)しまったことを、深く反省した。
「ですがその……わたしもまんざらではなかったと言いますか? 勇者様に求められていると思うと嬉しかったですし、それにその、甘美な背徳感がなくもなかったと言いますか……」
「そ、そう?」
「はい、だからこれからもいっぱい愛していただけると嬉しいです」
布団から顔を出したフィオナがにっこり笑って言った。
でも顔がまだ赤いところを見ると、恥ずかしいは恥ずかしいみたいだけど。
まったく可愛いヤツだなぁもう。
俺はますますフィオナを好きになってしまったのだった。
…………
……
「へー、それでフィオナさんが可愛かったから、1泊だった予定を延長して2泊して、延々とえっちっち三昧して帰ってきたわけ? ふーん」
アリスベルがちょっと冷たい感じで、家の居間でお茶をすすりながら言った。
「いやその……」
俺は出されたお茶に手を付けず、床に正座して背筋を伸ばしながら答える。
「なにか違ってることあったらどうぞ言って? 聞くから」
「いえ、特にはありませんです……おおむねアリスベルの言ったとおりで合っております……」
アリスベルの問いかけに俺は姿勢を正したままで正直に答えていく。
「ほんとおにーさんってば、どうしようもないえっちっちな変態勇者なんだから」
「まったくもって返す言葉もありません。フィオナが可愛くて堪らなくて、ついだらだらと引き延ばしてえっちしてしまいました……」
俺は誠意が伝わるように、神妙な顔をして答えた。
「最近思うんだけど、おにーさんって『つい』って言葉をよーく使うよね。口癖?」
「そ、そう……? なのかも……?」
「別に責めてるわけじゃないよ? ただの事実確認だし? おにーさんは下半身もSSSランクの最強勇者だなって思ってるだけだし!」
「はいすみませんでした」
「だから謝らなくていいってば、一応連絡入れてくれたしね」
「はい、一応フィオナには連絡するようにお願いしておきました」
帰らなかった言い訳を、俺はアリスベルに必死にしていた。
嫌われないようにほんと必死だった。
しかしそこでアリスベルが急に表情を和らげた――和らげたというかニヤッと笑った。
言うなれば、いたずらが成功した子供みたいな表情で。
「あはは、ドッキリ大成功!」
「な――っ! ま、まさか怒ったふりをして俺をイジメて遊んでたのか!?」
「捨てられた子犬みたいにしょんぼりしてるおにーさんを見てたら、『つい』イジメたくなっちゃった、てへっ」
「ひどい、アリスベルに嫌われたかと思って、俺必死でごめんなさいしてたのに」
あ、でもそんな風に俺をイジメるアリスベルも、なんかちょっとそれはそれで良かったかも?
アリスベルに冷たい目で見られていると、背筋がゾクゾクしたっていうか。
あれ、もしかして俺ってちょっとマゾなのかな?
まぁそれはそれとしてだ。
「それでフィオナさんは喜んでたの?」
すっかりいつもの様子に戻ったアリスベルが、のほほーんと聞いてくる。
「そうだな、喜んでくれてたと思う」
「ならばヨシ!」
アリスベルがにっこり笑って親指を立てた。
それを見て、やっぱりアリスベルには笑顔が良く似合うと思ったのだった。
「ただし、今日はアタシをしっかり愛してもらうからね。2日分だからね」
「もちろんだとも、今夜は寝かさないから」
そしてその言葉通り、俺はアリスベルと一晩中えっちしたのだった。
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