第49話 つんつん、ぷにぷに。「ん……んん……にゃ……」

「お疲れさまでした勇者様、どうぞ冷たいお茶です」


 講堂で騎士たちを前に勇者パーティ時代のエピソードを話し終えた俺に、フィオナがお茶を持ってきてくれた。


 話し疲れてのどが渇いていた俺は、それをありがたく頂戴する。


「ぷはぁ、生き返る。途中から話に熱が入って、のどがカラカラだったんだよな」


「今回は急な話で本当にすみませんでした」


「いやいや全然構わないよ。みんなすごく反応が良かったから、俺も話してて楽しかったし」


 やっばりね、話に対して、


「おおっ!」


 とか、


「さすがは勇者パーティ……」


 みたいな反応があると、つい講演にも力が入っちゃうよね。


「そう言っていただけると恐縮です」


 フィオナがぺこりと頭を下げた。


 で、なぜ俺が騎士たちの前で勇者パーティ時代のエピソードを披露していたかというと。


 フィオナが非番の日に隊舎まで会いに来たところ、この前SSランク・ギガントグリズリーを討伐した時に助けた精鋭部隊の部隊長と偶然出会って、ぜひとも若い騎士たちに話を聞かせて欲しいと頼み込まれたからだった。


 俺はフィオナとのデートを優先しようと思ったんだけど、当のフィオナが、


『私もぜひとも勇者パーティ時代のお話を聞いてみたいです!』


 そう目をキラキラさせて言ってきたので、そのまま流れで臨時の講演会をすることになったのだ。


「それにしても勇者様はすごく話慣れてましたよね。特に魔王四天王の炎帝スザクとの戦いは迫力満点で、皆かたずをのんで聞き入ってましたよ」


「勇者パーティ時代の話を聞かせて欲しいって依頼は多かったからな。自然と話すのにも慣れたし、ウケるネタもわかるようになったんだよ」


 特に俺が最後の詰めで若干ミスって仲間に守ってもらったスザク戦は、ウケが良いエピソードの1つだった。


 ミスを補いあい、仲間たちと協力して戦う感じが一番出ているからかもしれないな。

 あとリヨンがめっちゃ人気なんだよな。


「だいぶ時間も過ぎちゃったけど、講演会も終わったしこのままフィオナの部屋に行っていいか?」


「はい、ぜひいらして下さい――と言ってもいたって普通の兵舎の個室なので、大したおもてなしはできないんですけどね」


「フィオナがいれば、俺はそれだけで十分だよ」


「も、もう、勇者様は本当に口がお上手なんですから」


 その後、夕方になるまで俺はフィオナとお部屋デートを満喫したのだった。



 ………………


 …………


 ……




 翌朝。


 俺の腕の中ではフィオナが眠っていた。

 俺の腕を枕にしながら、幸せそうにすやすやと眠っている。


 もちろん俺もフィオナも裸である。

 男と女が裸でベッドで寝ている――つまりはそういうことである。


 それにしても、だ。


「なんだこいつ可愛すぎだろ……」


 普段はクールビューティなフィオナが、完全に油断しきった平和な顔で気持ちよさそうに寝てるんだもん。

 ギャップ萌えで胸がきゅーんってなっちゃうのは、これもう仕方なくない?


 いてもたってもいられなくなった俺は、腕枕している手とは反対の手の指で、ついついフィオナのほっぺをつんつんしてしまった。


 まっ白なフィオナのほっぺが、ぷにぷにと柔らかい感触を返してくる。


「ん……んん……にゃ……」


 ほっぺをつんつんされたフィオナが眠りながら可愛く反応した。

 

 つんつん、ぷにぷに。

「ん……んん……にゃ……」


 つんつん、ぷにぷに。

「ん……んん……にゃ……」


 しばらくつんつん、ぷにぷにと、ほっぺの感触とフィオナの寝反応を堪能していると、

「ん……あ……ん……ふぁ」


 可愛い声を漏らしながらフィオナが目を覚ました。


 しまった。

 起こすつもりはなかったのに、フィオナの反応が可愛すぎてついやりすぎてしまったぞ。


「おはようフィオナ」


 俺はさりげなく指をフィオナから遠ざけると、何事もなかったかのように朝の挨拶をした。


「あ、勇者様。おはようございます。今日も気持ちのいい朝ですね――おふうぇあぁっ!?」


 挨拶をした直後、フィオナが奇声をあげてビクゥッ!と硬直した。

 まっ白だったほっぺが、一瞬でまっ赤っ赤に紅潮する。


 フィオナは赤くなった顔を隠すようにパッと布団の中に顔をうずめた。


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