第41話 悪いヤツはいない

「私は勇者様を絶対に死なせるわけにはいかないと、勇者様の命を何としてでも助けねばならないと、強く決意したのです」


 フィオナが使命を果たさんとする人間特有の、とても気高い表情で言った。

 俺は勇者パーティで各地を旅する中で、そういった使命に人生を捧げる志高き人たちを何人も見てきたから、パッと見ればわかるのだ。


「そ、それで?」


「そのために勇者様のおち〇ちんをどうにか鎮めようと思い、あれこれ試してみたのですが、いかんせんそういった実戦技能にはめっぽう疎かったために力及ばず……最後の手段として、勇者様にまたがってえっちに及んだというわけです」


「お、おう……」


「そして努力の甲斐もあって勇者様のおち〇ちんは無事に鎮まり、事なきを得ることができました」


「そ、そっかぁ……そうだったのかぁ……」


「その後、初めてのえっちで勇者様の猛りを鎮めた満足感とともに、激しい疲労を覚えた私は、不覚にもそのまま勇者様の腕の中で眠ってしまったというわけです」


「……」


「勇者様?」


「つまり俺はフィオナとえっちしちゃったんだな。しかもフィオナの処女を散らしちゃったのか……つまり浮気えっちしちゃったのか」


「いいえ、決して浮気ではありません。あれは勇者様の命を救うための純粋な医療行為でした。その、嫌ではありませんでしたけど」


「う、うん……嫌じゃなかったんだな。ありがとうなフィオナ」


「い、いえ……」

 フィオナが恋する乙女のように、人差し指をつんつくしながらモジモジと言った。


「でもアリスベルには正直に伝えようと思う、フィオナと浮気えっちしたってさ。アリスベルに嘘はつきたくないから」


「ですが、これは勇者様の命を救うための必要な行為であって――」


「それでも、黙っておくことはできないから」


「決意は固いようですね。良かれと思ってやったのですが、申し訳ありませんでした」


「いいやフィオナの行為には本当に感謝してる。命の瀬戸際だったのは自分でもわかってたから、それこそフィオナがえっちしてくれなかったら死んでたかもしれないわけだし。だから謝るのだけはやめてくれ、フィオナは俺の命の恩人で、俺はとても感謝してるんだから」


「勇者様……温かいお言葉をかけていただきありがとうございます」


「そうだよ、悪いヤツはいないんだ。騎士団も俺も命を賭けて魔獣と戦って、フィオナも死にかけていた俺を必死に癒そうとしてくれた。みんな一生懸命やったことだったんだから」


「もし勇者様が黙っておけと言うのであれば、私はこのことを墓まで持って行きます。アリスベルさんと勇者様の仲を引き裂くのは本意ではありませんので」


「ううん。それでもやっぱり俺は正直にアリスベルに何があったかを伝えたいんだ。一生懸命やったことと、結果的にフィオナと浮気えっちしちゃったことは全く別のことだからさ。なにより俺はアリスベルに嘘をつきたくないから」


 正直に話した結果アリスベルに嫌われたとしてもそれは仕方ない。

 浮気者と罵られても甘んじて受け入れよう。


 それでも誠心誠意、何があったかをちゃんと伝えることこそがなにより大事なことだと思うから。

 人と人との信頼関係とは、こういった誠実な行為の積み重ねの結果だと思うから。


「勇者様は本当にアリスベルさんのことを愛していらっしゃるのですね。少し妬けてしまいます」


「だからずっと言ってるだろ? 俺はアリスベルが大好きなんだって」


「はい、心より納得できました。これから行う勇者様の戦いを、私も関係者の一人として見届けたく思います」


「じゃあ帰るとするか」

「はい、お供いたします」


 ちなみにここはギガントグリズリーと戦った自治領の東端地域にある宿だった。

 騎士団が周囲を警備し、俺の回復を待っていてくれたらしい。


 そういうわけで、今回も一応無事に討伐を終えた俺はフィオナとともに、アリスベルの待つ家へと帰宅したのだった。

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