第40話「申し訳ありません、えっちしてしまいました」

「まぁ待て落ち着くんだフィオナ、まずは俺の考えを聞いて欲しい」

「は、はい勇者様」


「でもその前に服を着ようか」

「そ、そうですね、2人とも裸ですもんね」


「う、うん……」


 俺はいったん起き上がると、気まずい空気の中ですぐ脇に置いてあった衣服を身に着けた。

 フィオナも起き上がって自分の服を身にまとう。


 そうして服を着た俺とフィオナは、ベッドの上で正座して向き合った。


「それで俺の考えなんだけど」


「は、はい」


「俺たちは裸で一緒に寝ていただけで、決してえっちしたわけじゃないはずなんだ。なぜなら俺にそんな記憶はないし、そもそも俺の身体は精魂尽き果てていて動かなかった。だから俺はそう結論付けた。違うかい?」


 俺は先ほど思い至った完璧な「浮気えっちしてないよ」説を、フィオナに披露した。

 全く穴のない完璧な論理。

 これを論破できる者はいないはずだ。


 つまり俺は浮気えっちをしていないのである。


「申し訳ありません、えっちしてしまいました」


「だろう、俺たちはえっちなんてしていな――はい? 今なんて?」


 フィオナの言語明瞭・意味不明瞭な発言を、俺は思わず聞き返してしまった。


「申し訳ありません、えっちしてしまいました」


「ははは、朝から軽快なジョークだね。まったく寝起きでこんなジョークが言えるなんて、フィオナは朝一ですぐ行動できる朝型タイプと見た」


 あまりに冗談が鋭すぎて俺は一瞬心臓が止まりそうになっちゃったよ?

 普段は凛としたクールビューティなのに、フィオナってば意外とお茶目な面があるんだなぁ。


「いいえ冗談ではありません。私は昨晩、勇者様とえっちしてしまいました」


 しかしフィオナは三度同じ言葉を繰り返した。


「……いや、だって、そんなばかなことはありえないよ? だって俺、身体も意識も死にかけてたんだし、えっちしたはずがないんだもん」


 俺はとても弱弱しい口調で抗弁した。


「だからなんです。勇者様の生命エネルギーは限りなくゼロになっていました。下手をすれば死んでしまうくらいに」


「だろう? だったら――」


「ですがその、死にそうなほどにぐったりとした勇者様をベッドに寝かしつけたところ、その中で唯一勇者様のおち〇ちんだけは悠然と立ちあがっていたのです」


 フィオナが頬を真っ赤に染めながら言った。


「ええっと……」

 フィオナから告げられた奇想天外な事実に、俺は完全に言葉を失ってしまっていた。

 フィオナが言葉を続ける。


「私はしばらく待ってみたのですが、猛々しく反り返ったそれはいっこうに収まる気配がありませんでした」


「そ、そう……」


 なにそれ恥ずかしい。


「それを見て私は『疲れマラ』という言葉を思い出したんです。その昔、保健の授業で習ったのですが、男性は死に直面したり極度に疲労が蓄積すると生存本能が刺激されて、子孫を残すべくおち〇ちんが立ってしまうそうなのです」


「ああ、うん、そういうこともあるのかな?」


 よく知らないけど、真面目で勉強家なフィオナが言うんだからそうなんだろう。

 さすがフィオナだなぁ。


「しかしその時まさに勇者様は生と死の瀬戸際にありました。生命力が低下している中で、おち〇ちんにエネルギーが集中的に使われていたとあっては、更なる体力の低下を招くことは必死。それはつまり勇者様の死の確率が高くなることを意味します」


「ま、まぁ? そうなる……のかもな?」


 腑に落ちるような、でもやっぱり落ちないような?


 なんとも微妙な考えだったけど、フィオナにしてもその時は俺の命がかかっているという極限状態だったのだから、やや突拍子もない結論に行きついても仕方なくはなかった。


 何もせずに後悔することだけはしたくなかっただろうから。


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