第28話 ダンス・ウィズ・アリスベル
「もう、いつもはどうしようもないえっちっちなのに、時々無駄にかっこいいんだから……なんなのもう、おにーさんのばーか」
「ごめん、途中から小声でよく聞こえなかった。なんだって?」
「笑われたらおにーさんのせいだから、ちゃんと責任とってねって言ったの」
「わかった、もしもの時はちゃんと責任をとってアリスベルと結婚するよ」
「ぜんぜん違うし! それおにーさんしか得してないし!」
どこか吹っ切れたように明るく言ったアリスベルは、俺の右手をそっと握った。
手に手を取り合った俺たちはすぐに踊りはじめる。
「俺がリードするから、俺を信じて力を抜いてついてきて。自然に足を出せばいいからさ」
「う、うん……自然に、自然に……」
俺はおっかなびっくりなアリスベルの手を引き、腰を抱くと、アリスベルの身体を上手くコントロールしながら簡単なステップを踏んでいく。
アリスベルも俺を信頼してくれているのだろう、俺が言ったとおりに力を抜いた自然体でいてくれて、だから俺たちは見事にダンスを踊ることができていた。
「わわっ、アタシ踊れてるよ!?」
「な、意外とダンスも簡単だっただろ?」
「それもこれもおにーさんのおかげだね。ありがとおにーさん」
「アリスベルが喜んでくれてよかったよ」
アリスベルが喜んでくれたのが嬉しくて、俺は笑顔になった。
「でも必要以上に身体、っていうか下半身を押し付けてくるのはやめてね?」
「……」
アリスベルが笑顔の中に怒りを潜めているのを見て取って、俺は真顔になった。
「おにーさん返事は?」
「……はい」
「まったくもう、おにーんさんってば、どーしようもないえっちっちなんだから」
「それもこれもアリスベルが可愛すぎるのがいけないんだ」
「はいはいありがとうございます」
とまぁそんな感じでアリスベルはもうすっかり元気を取り戻したみたいだった。
うんうん、やっぱりアリスベルには明るく元気なのが似合ってるよな。
その後、
「せっかくおいしそうな料理がいっぱいあるんだから、お腹いっぱい食べよう!」
「ちなみに俺のお勧めは、あそこの奥のテーブルにあるでかい海老だ。よくこんな森の中にあるエルフ自治領で、あんな大きな海老が手に入ったもんだと感心するくらいだぞ。間違いなくあれはいいものだ、他の人に食べられてなくなる前に食べちゃおうぜ」
「アタシ、海老って食べたことないんだよね。このあたりだと見ることもほとんどないし。美味しいの?」
「なら最初のターゲットはあの海老で決まりだな。海老ってのは身がプリプリなんだ。だから食べたらきっと食感にびっくりするぞ?」
「えへへ、それは楽しみだね!」
それから俺とアリスベルはあちらこちらに置いてある豪勢な料理を、2人で仲良く食べ歩きしたのだった。
ちなみに初めての海老に挑戦したアリスベルは、
「むぐむぐ、ごくん、なにこれしゅごい……ほっぺが落ちそう……だめ、手が勝手にお代わりを求めてしまう……」
「な、言っただろ?」
その身のプリプリとした食感にいたく感動していた。
ってなわけで、舞踏会を目いっぱい――いや腹いっぱい楽しんだ俺とアリスベルは、その日は迎賓館に用意された客室で一夜を過ごした。
――――――
いつもお読みいただきありがとうございます。
最近はめっきり少なくなった正統派勇者の物語。
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