第27話 お誘い

「まるでアリスベルは天使か女神が地上に降り立ったみたいだよ。ここだけ天界になったのかと思わず勘違いしかけたぞ」


 俺はそう素直に思ったことを伝えたんだけど、アリスベルはそうは受け取ってくれず。


「そーゆーおチャラけた話じゃなくて、真面目な話なの。ほらアタシ、ドレスなんて生まれて初めて着たし。ティアラは宝石がついてキラキラだし、こんな高いヒールも初めてだし。そもそも舞踏会に自分が招かれるだなんて思ったこともなかったもん」


 大きく開いたドレスの胸元を引っ張りながら、アリスベルは自信がなさそうにつぶやく。

 ドレスの胸元から、アリスベルの形のいい胸と谷間がチラリした。


「安心していいぞ、すごくよく似合ってるから。深いブルーのドレスも、アップにまとめた髪も、綺麗なうなじも大人っぽくて色気があってすごくドキドキするよ。今のアリスベルは本物のお姫様みたいだ」


「いつもみたいに適当な冗談なのか、本気で言ってくれてるのか、おにーさんの場合はわからないんだよねぇ」


「いいやどっちも違うな。俺はいつも本気でアリスベルを褒めているぞ。今日はその中でも特別に綺麗で、一番キラキラ輝いてるってことさ」


「はいはいありがとね、おにーさん。ほんっと、おにーさんってばいつでもどこでも何してても絶対ブレないよね。そのブレなさはある意味尊敬するかも」


 俺と話したからか少しは明るくなったものの、それでもまだアリスベルの声色は元気のなさを隠し切れないでいた。


 うーん。

 色眼鏡抜きにしてアリスベルはすごく可愛いし、ドレスもとっても似合ってるし、ぜんぜん浮いてなんていないと思うけどなぁ。


 俺が思うに多分、アリスベルはこういうきらびやかな場の雰囲気に慣れてなくて、それで気後れしてしまってるんじゃないだろうか。


 せっかくの盛大な舞踏会なのに、アリスベルをしょんぼりさせたまま帰すわけにはいかないよな。

 よし、ここからはアリスベルを全力で楽しませるのを最優先目標とするとしよう。


 そう強く思い立った俺はすぐに行動に移すことにした。


「曲が変わったな。せっかくだし今から俺と一曲踊らないか? いや、一曲どうですか、レディ・アリスベル」


 俺は軽く半身になって左手を腰の後ろに持ってくると、右手をアリスベルに差し出した。

 まずは曲の変わり目にダンスに誘ってみる。


「ううん、いい。アタシはダンス踊れないから。っていうかおにーさんがダンスを踊れるのにびっくりした。いっぱい女の人と踊ってて、ちょっと意外だったかも」


 しかしアリスベルは苦笑いしたままで、俺の差し出した手を決して取ろうとはしない。


「俺は勇者だからな。まぁ今は追放されてるんだけどさ」

「なにそれ関係ある? 勇者にダンスって必要なくない?」


「それが意外と必要なんだよ。パーティとかに呼ばれることが結構あるんだよな」


「おにーさんってほんとに勇者で、ほんとにすごい人だったんだね。今日の姿を見てちょっと理解できたかも」


「ふふん、俺のことを見直したか?」

「見直し過ぎて、なんだか雲の上の人って感じかなぁ」


「大丈夫、俺だって普通の人間だから。同じように、ここにいる人たちもアリスベルとなにも変わらない。だから気後れしてないで一曲踊ろうぜ」


「だからそもそもアタシはダンスなんて踊れないんだってば。恥かきたくないし、多分アタシのせいでおにーさんにも恥をかかせちゃうから」


「それはないな、俺がちゃんとエスコートするから、間違ってもアリスベルに恥なんてかかせないよ。安心して」


「でも……」


「ドレスで綺麗に着飾ったお姫様みたいなアリスベルと、俺は踊りたいんだ。俺の手を取ってはくれないか?」


 アリスベルの心が少し揺れ動いていると見て取った俺は、最後の一押しをするように俺が出せる一番優しい声色でアリスベルに語りかけた。

 もしこれでもダメだったら仕方ない、その時はこれ以上誘うのはスパッと諦めよう。

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