【それでも俺は】積年の腰痛が原因で国とパーティを追放された勇者、行き倒れていたところを美少女エルフ整体師にゴキャァ!と整体してもらい完治する。「ありがとう、これで俺はまた戦える――!」【世界を救う】
第29話 ~ダグラスSIDE(2)~ 破滅(ざまぁ)
第29話 ~ダグラスSIDE(2)~ 破滅(ざまぁ)
『新勇者』ダグラスは古代神殿の遺跡の前で一人立ち尽くしていた。
その表情を一言で表すならば、『呆然』だ。
ダグラスの他に仲間はいなかった。
『新生勇者パーティ』はダグラスを残して皆、倒されてしまったからだ。
「俺が選りすぐった『新生勇者パーティ』がこうもたやすく全滅するなどと……こんな馬鹿なことがあってたまるか……何が、いったい何が起こってるんだ……」
力なくつぶやいたダグラスの前には、巨大な古代神殿の遺跡があって、そしてそこに一匹の巨大な竜がたたずんでいた。
身体の高さが15メートルはある巨竜だ。
その巨体を覆う鱗――漆黒の竜鱗は硬く、ダグラスたちのどんな攻撃も通じなかった。
巨竜は、獰猛という言葉をそのまま形にしたような凶悪な真紅の瞳で、高みからダグラスを
「あ、ああ……」
それだけでダグラスはヘビに睨まれたカエルのように、情けなく恐怖に打ち震えてしまった。
今回の任務はもともと、AランクやSランク――だけでなく本来はほとんど出現することのないSSランクの超高ランクの魔獣の出現が増加していることの調査が目的だった。
魔獣のランクと出現回数を数値化して地図に落とし込んだところ、その中心にこの古代の神殿があり、ダグラスたちはここを原因ではないかと考えて調査にやってきたのだ。
そして活性化している魔獣たちを倒していった先にいたのが、この漆黒の巨竜だった。
「超越魔竜イビルナーク……」
そのあまりに禍々しい姿を見たダグラスの口からは、忌むべき名前が漏れ出でる。
それはかつて神々の世界を滅ぼしたという伝説の邪竜。
漆黒の巨竜にして恐ろしい真紅の瞳を持ち、魔王に匹敵するSSSランクを持つといわれる絶対無敵の超越存在。
今ダグラスの前にいる巨竜の姿は、神話や伝承などで語られる超越魔竜イビルナークの姿とうり二つというほどにそっくりだったのだ。
なによりその圧倒的に過ぎる力に、ダグラスは完全に身の程をわからされてしまっていた。
為すすべを失っていた。
ダグラスが結成した『新生勇者パーティ』をいとも簡単に粉砕し、SS+ランクのダグラスの渾身の一撃を受けてもビクともしない。
それどころか魔王と戦っても折れることのなかったダグラスの『星降りの剣』が、刃の半ばで無残にもへし折られたのだ。
勇者クロウが持つ『破邪の聖剣』とほぼ同等の力を持った、準最強の『星降りの剣』がである――!
そんな常軌を逸した存在に、ダグラスは他に心当たりはありはしなかった。
「まさか伝説の邪竜が復活したというのか……」
超越魔竜イビルナーク。
神を殺して神話の時代を終わらせという終焉の魔竜が、今ここに復活したのだと、ダグラスは理性ではなく本能で理解させられてしまっていた。
恐怖におののくダグラスに向かって、超越魔竜イビルナークが巨大な口を開いた。
するとその中に漆黒の粒子が、猛烈な勢いで渦を巻きながら吸いこまれていく。
かつて神をも殺した、全てを薙ぎ払い塵へと変える必殺のダークネス・ブレスを放とうとしているのだ。
その圧倒的な力の高まりの前に、もはやダグラスは完全に戦意を喪失していた。
「こんなもの……こんなものに人間が勝てるわけがないだろう……不可能だ……次元が違う……」
ダグラスは呆然とつぶやく。
「こんなはずじゃなかった……こんなはずじゃなかったのに……オレは、オレは……」
絶対悪たる魔王は討伐され、世界は平和になったはずだった。
だから勇者クロウを謀略で追放し、ダグラスが『新勇者』を名乗っても許されるはずだった。
それで何の問題もないはずだった。
「なのにどうして! どうして超越魔竜イビルナークなどという化け物が復活したのだ! よりにもよってどうして今この時代なのだ! オレのいる時代なのだ!!」
究極の超越存在を前にして、ダグラスはもはや子供のように嘆き喚くしかなかった。
「おかしいだろう、こんなの……おかしいだろう! おかしいだろおかしいだろおかしいだろうっ! オレは勇者だ、新勇者ダグラスなんだぞ! そのオレがどうしてこんな目にあわないといけないんだっ!」
もはや惨めにわめくしかできないでいるダグラスに向かって、超越魔竜イビルナークが一片の容赦もなくダークネス・ブレスを放った。
『新勇者』ダグラス=ブラフマンは、その神滅の黒き波動の前に、何の抵抗も出来ずに哀れに塵と消え去った。
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