第7話「超必殺技! ジャスティス・ラグナロク・ブレイク!」

「でもこんな巨大な相手じゃ、いくらおにーさんが強くても!」


「まぁ見てろアリスベル。アンチ・バースト・システムを解除! 全リミッター開放! 『破邪の聖剣』ファイナル・ラグナロク・モード発動!」


 俺は『破邪の聖剣』にかかっているリミッターと制御システムを全て解除・開放した。

 するとその刃が、まぶしい程の猛烈な光でもって輝きはじめたのだ。


 俺の持つ勇者パワーをぐんぐん吸って、『破邪の聖剣』が真なる力を解放しようとしているのだ――!


「わわっ!?」

 アリスベルが今日一番って感じの驚いた声をあげる。


 よしよし、この技は見た目も派手だからアピール力が高いもんな。

 しっかりと見ててくれよアリスベル。


 俺は太陽のごとく光り輝く『破邪の聖剣』を上段に振りかぶると、


「超必殺技! ジャスティス・ラグナロク・ブレイク!」

 それをボスキングウルフに向かって降りおろした。


 目を開けていられない程の閃光が、ボスキングウルフに向かってほとばしる。

 巨大な光に飲まれたボスキングウルフは、避けることも抵抗することもできずに光の中に飲み込まれ――そのまま塵も残さずに消滅したのだった。


「ほぇ……??」

 アリスベルがポカーンと口を開けたままで固まっている。


「聖なる勇者パワーを一気に叩き込む俺の必殺技、ジャスティス・ラグナロク・ブレイクだ。Sランクの魔獣にはちょっとやりすぎだったけど、アリスベルに俺の強さを知ってもらういい機会だったからな」


「お、お、お……」

「おおお?」


「おにーさんってば、ほんっとうに強かったんだね!?」

「だからそう言ったじゃないか」


「だって50体以上いたAランク魔獣のキングウルフをあっさりと全滅させた上に、Sランクのボス魔獣まで跡形もなく消し去っちゃったんだよ!? もうこれ人間技じゃないよ!?」


 興奮冷めやらぬと言った様子でまくし立ててくるアリスベル。


「ふふん、こう見えて俺は魔王を討伐した勇者だからな。そんじょそこらの人間とは強さの次元が違うのさ」


「ふわっ、おにーさん、すてき……」


 アリスベルの視線が熱を帯びたものになっているのを、俺はひしひしと感じ取っていた。

 よしよし、イイカッコする作戦は文句なしの大成功だ!



 その夜。

 町を救った英雄として、俺をもてなす盛大なうたげが行われた。


 俺はアリスベルの隣に座り、町長やら各地区の代表やら、入れ代わり立ち代わりやってくる町の人たちから、何度も何度も感謝の気持ちを伝えられていた。


 もちろん気持ちだけではなく、少なくない額のお金もお礼として手渡されている。

 セントフィリア王国を追放された時に財産もあらかた巻き上げられていたので、俺は素直にいただくことにした。


「いえいえ当然のことをしたまでですよ」

 俺は時に謙遜して謙虚な男を演出しつつ、


「行き倒れていた時にアリスベルに助けてもらった恩を返しただけですから」

 時にアリスベルの存在が俺にとってとても大切なのだとアピールをする。


 アリスベルはこう言ったことには慣れていないのか、町の偉い人たちから頭を下げられて目を白黒させていた。

 相手に合わせるようにぺこぺこと頭を下げ返すアリスベルは、これまたとても可愛かった。


 歓迎のうたげは日が変わるころまで続き、最後のほうになるとさすがの俺もちょっと疲労気味だった。


「でもこうやって歓迎のうたげを開いてもらうと、なんだか勇者パーティであちこち魔獣を退治して回ってた時を思い出すなぁ。あの頃は良かったよ、みんなで魔王を倒すんだ! そうしたら世界は平和になるんだ! って純粋に思っててさ」


 俺は昔を懐かしんでしみじみと呟いた。


「今は違うの?」


「世の中はそんなに簡単じゃなかったかな。共通の敵である魔王がいなくなった途端に人間同士の争いが激しくなって、魔王を倒した英雄のはずの俺まで謀略で追いやられてさ。俺って何のために命を賭けて戦ったのかなって、時々ふっと思うことがある」


「おにーさんって、本当の本当に勇者様だったんだね」

「だから最初からそう言ったじゃないか。俺は魔王を倒した勇者なんだって」


「うーうん、今のはそう意味じゃないの。ただ戦うのが強いだけじゃなくて、心までちゃんと勇者をしてるってことがよくわかったっていうか」


 アリスベルがどこか熱に浮かされたような様子で言った。

 俺との距離を詰めると、そっと遠慮がちにもたれかかってくる。


 その肩を優しく抱くと、さらにぎゅっと体重を預けるようにアリスベルがくっついてきて。

 触れあったところからはアリスベルの優しい温もりがじんわりと伝わってきて――。


 俺はアリスベルの温もりを感じながら、今日一番の幸せな気分に浸っていたのだった。

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