第6話 SSSランクの勇者←マジ強い

「アリスベル、ここを動かないでくれな」

「う、うん」


 安心させるように優しい口調で言いながらアリスベルを下ろすと、俺は『破邪の聖剣』を抜いた。

 長らく杖としてしか使っていなかったので、こうやって抜刀して構えるのは実に数年ぶりだった。


 久しぶりに抜いた破邪の聖剣はしかし、まるで毎日触っていたかのように俺の手にぴったし馴染んでくれる。

 さらに俺が軽く勇者パワーを剣に込めると、それに応えるように刀身が白銀色の聖なる光を発した。


「よし、いけるな。全盛期と変わらない。なにより腰の心配をしないでいいのが最高にいい気分だ。今なら魔王とサシでやっても勝てそうだ」


「でもでもすごい数の魔獣だよ? 30体、ううん、下手したら50体以上いるかも。こんな数相手に本当に大丈夫?」


 アリスベルが不安そうに尋ねてくる。

 だがしかし!


「アリスベル、君が救ってくれた勇者の力を今から見せてあげるよ。SSSランクの魔王すら倒した地上最強の力をね」


 俺はそう言うと魔獣――キングウルフたちに向かって駆けだした。

 俺の戦意の昂ぶりに反応して勇者の最強戦闘用スキル『聖なる加護』が発動し、身体中に強大な勇者パワーが湧き上がっていく――!


「そらよっと」


 俺は一番近いキングウルフに『破邪の聖剣』を振り下ろした。

 するとその首が豆腐でも切ったかのようにストンと落ちる。


 遅れて巨体が崩れ落ち、首から上を無くしたキングウルフはそのまま動かなくなった。

 走りだしてから倒すまで、わずか4秒の出来事だった。


「はえ……?」


 言われた通りにその場を動かず視線だけを向けていたアリスベルが、電光石火の瞬殺劇を見て、あっけにとられたような声をあげた。


 ちょっと間抜けな声がまた可愛らしいな。

 さすが俺が惚れた女の子だ、実にGoodだね。


「待てよ、これはある意味チャンスだよな。ちゃっちゃと全滅させて、アリスベルに俺が強くてかっこいいところを見せよう」


 俺はモチベーションがぐんぐん上がってくるのを感じながら、次々と町に入り込んだキングウルフたちを倒して回った。

 それこそ目についたやつを片っ端から殺して回る。


 途中からキングウルフたちは俺を一番の標的と定めたのだろう、向こうから襲ってきてくれたので探す手間が省けて楽だった。


 そしてキングウルフたちが俺を狙って襲ってくることに気付いた俺は、アリスベルから見える位置にさりげなく移動した。

 もちろん圧倒的な戦闘力をアリスベルに見せることで、強くて頼れる男だということをアピールするためである。


「ぶっちゃけSSSランクの俺にとって、たかがAランクの魔獣なんて、小さな子供と丸めた新聞紙でチャンバラごっこするのと変わらないんだよな。ほい51体目、これで52体目と」

 

 俺は特に苦戦することもなく、51体目と52体目のキングウルフを立て続けに斬り倒した。


 するとそんな俺の前に最後の1体、巨大なキングウルフが姿を現したのだ。


 体長は10メートルほど、他の個体より圧倒的に大きな体躯は威風堂々という言葉を贈るにふさわしかった。


 さらに額には大きな角まで生えていて、他のキングウルフとは明らかに一線を画している。


 グルルルルルルルルル――ッッ!


 巨大なキングウルフが、俺を威嚇するように低く獰猛に唸った。


「なるほどな、お前がこの群れのボスってわけか。見事な角も生えてるし、身体は他の奴の2倍くらいはでかいな。ランクは……へぇSランクか。久しぶりに見たなSランクの魔獣は」


 『勇者スカウター』がたちまちにボスキングウルフの戦闘力を分析する。

 ボスキングウルフは仲間を皆殺しにされて怒り心頭のようだった。


「こんな大きな個体が町まで来てるなんて! 逃げておにーさん!」


 ここまで静かに戦いを見守っていたアリスベルが、でもこれはもう無理って感じの恐怖におののいた悲鳴をあげる。


 だけど、


「大丈夫だってば、この程度なら余裕余裕」


 アリスベルが俺を心配して&俺を見てくれているという事実と、そんなアリスベルの前でイイカッコしたくて、俺のモチベーションはもうマックス状態なのだった。


 別にこのままでも楽に勝てるんだけど、せっかくボスっぽい、見かけだけは超強そうなやつが出てきたんだから、ここは俺の必殺技でもって頼れる強い男を最大限アピールさせてもらうとしよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る