もしも異世界ギルドが市役所だったら?

ちびまるフォイ

ルールを守った世界

「番号札203番でお待ちの勇者さん」


「やっとか……」


座り続けてお尻から根が生えるかと思った頃に、

やっとギルド市役所員に呼ばれて窓口へと向かった。


「勇者さんは、ギルドに入りたいということで」


「ええ」


「ではこちらの書類を記入してから、番号札をもう一度とって待ってください」


「また待つのかよ!? だったら先に書類だけ渡しておけば、

 さっき待っている間に記入できたのに!」


「これも規則ですから」


「むぅ……」


ギルドに入らないことには仕事も受けられない。

勇者はしぶしぶ窓口を離れ、もう一度番号札をもらって待つことにした。


イライラしながら待つこと数時間。


「番号札1007番でお待ちの勇者さん」


「遅いよ!!」


思わず声が出てしまう。

勇者はドスドスと鼻息あらく窓口へとけしかけた。


「はい書類の記入終わりましたよ。2分もかからなかった。

 なのに残りはずーーっと待っていたんですよ!」


「書類確認しますね」

「無視か!」


ギルド職員は意に介さずに記入されたギルド加入申請を読んでいく。


「大丈夫そうですね」


「ああよかった。これでギルドに入れるんだ」


「いえ、もう1枚書類があるんですよ」


「はぁ!? だったら最初に渡してくれよ!」


「規則ですから」


「なんでそんな規則にしなくちゃいけないんだよ!

 最初に記入書類をぜーーんぶ渡してくれたらスムーズにギルドに入れるのに!」


「…………?」


「"こいつなに言ってんだ"って顔するなよ!!」


「番号札をとってお待ち下さい」


「ぎゃあああ」


勇者はふたたび番号札をとって待ちぼうけをくらうことに。

ぶつくさ文句をいいながら待っていると、町の外から悲鳴が聞こえた。


勇者はギルドを出ると、町の外からモンスターがやってくるのが見える。


「おいおいうそだろ……!? まだギルドも入ってないってのに!」


勇者はあわててギルドへと引き返す。

ギルドの中は相変わらず静かで、この緊急事態を認識していないように見える。


「番号札6592番の方、窓口へ」


勇者は窓口へ向かっていた人を押しのけて、ギルド事務員に駆け寄った。


「なにやってるんですか。順番を守ってください」


「あんた町の外の状況を知らないのか!?

 すぐそこまでモンスターが来ているんだぞ!」


「そうなんですか?」


「はやく仕事の依頼を貼ってくれ!

 冒険者たちが倒しに向かわないと大変なことになる!!」


「それはギルドへ正式に魔物討伐依頼をする、ということですか?」


「そうなるならそれでいい! 早くしてくれ!」


「ではこの書類を記入してください。番号札をとってお待ちください」


「言ってる場合かーー!!」


勇者は渡されたギルドへの仕事の依頼書とペンを払った。


「あんた今の状況わかってないのか!?

 もうモンスターは来てるんだ! ことは一刻を争うんだよ!」


「しかし、まだ依頼の登録は終わっていません。

 依頼主の書類と、二段階認証と、初めて飼ったペットの名前の登録が必須です」


「モンスターが町の人を襲ってから仕事を依頼されたんじゃ遅いんだよ!!」


「では特急申請の書類を……」


職員がまた新しい書類を出そうとしたとき、ギルドの中に咆哮が反響した。



「ゴアアアアーーーーーーーーーッ!!」




「も、モンスター!? 町の中にまで入ってきたのか!?」


ついに凶悪なモンスターは町へと到着。

そして、このギルドへとやってきてしまった。


モンスターの体は大きく、皮膚は鋼のように頑丈でどんな剣もはじかれそう。

口からは炎をまとった息を吐いている。冒険者は秒で消しズミにされるだろう。


「こんなの勝てるわけがない……!!

 せめて、せめてギルドから腕の立つ冒険者を集めていれば……!」


「ゴアアアアーーーーーッ!!」


凶悪なモンスターはものすごい勢いで突進した。





そしてモンスターは番号札を取ると、ベンチに座った。



「番号札1兆4098番。襲撃依頼のモンスターさん、窓口へどうぞ」



番号が呼ばれる頃、モンスターは待ちかねてすでに町から去ってしまった。

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