第15話 師匠
お風呂から上がると、ダイニングにはすでに夕ご飯が並べられていた。
夕ご飯は、筑前煮や、ゴボウのごま油和え、ほうれん草のお浸し、高そうなステーキ、味噌汁、ご飯が並んでいて、和洋折衷な食事となっていた。
「紡さん、お風呂はどうでしたか?落ち着きましたか?」
使用人の
「はい、お陰様でなんとか……。」
紡は、智絵さんが手を握ってきたことに、どぎまぎして、尻切れとんぼな話し方をしてしまった。
智絵さんは、20代くらいで155 cmくらいの童顔であったが、清純で大人びた雰囲気を持ち合わせているため、15歳の高校生には少しばかり刺激が強すぎた。
「こちらにお座りください。愛お嬢様と琴美さんがお風呂から上がり次第、夕食にしますので、もう暫くお待ちください。」
そう言うと、智絵さんは、また別の場所に移動していった。かなり忙しそうである。
紡は、目の前にある豪勢な料理を呆然と眺めていた。そして、あることに気がついた。
「1、2、3、4、5? なんで料理が5つあるんだ?」
食卓には、料理が5人分用意されていた。しかし、今、愛の家には、紡と愛、琴美、智絵さんの4人しかいない。愛のご両親の分もしれないが、2時間前ほどにリビン対策班に戻ったばかりなのに、もう帰ってくるとは思えない。
——これは一体誰の分なんだ。
そう考えていると、後ろから
「これは、わしの分じゃよ。」
紡は、驚きながら立ち上がり、すぐに臨戦態勢を取った。
「はっはっは、そんなに驚くことじゃないだろ、そんなに気配も消してないのに、」
紡の前には、紡と同じくらいの背丈の初老の男性が笑いながら立っていた。
「大丈夫じゃよ、私はリビン兵ではないよ。」
初老の男性がそう紡に答えている時、ダイニングに智絵さんが入ってきた。
「あ〜貴史先生、いらしてたんですか、それならばもっと音をたてて、自己をアピールしながら来てください。びっくりするじゃないですか。」
智絵さんは、ほっぺたをぷくっと膨らませながら、初老の男性に不満を告げていた。
「あの〜智絵さん、こちらはどなたですか?」
紡は、現状を全く飲み込めておらず、智絵さんの会話から、なんとか推察しようとしたが、叶わなかったため、もうど直球に智絵さんに尋ねた。
「あ、ごめんなさい、初めましてよね、こちらは
能力の先生……。先ほど、自衛隊駐屯地で行われた作戦会議で、能力の扱い方を先生に教えてもらう取り決めになっていたことを紡は思い出した。
「いかにも、ワシが、神宮貴史である。先ほど、愛君のご両親から連絡が入り、面倒を見て欲しいと頼まれたので、お主達と今後の方針を確認しにきたのじゃ。」
貴史先生は、微笑みながら、事の
「さっさ、先生はこちらにお座りください。」
智絵さんは、貴史先生を紡の隣の席に誘導した。そして、紡も、初対面でなかなかの気まずさだが、貴史先生の横に恐る恐る着席した。
「「お待たせ〜」」
ちょうど紡が席に着いた時、愛と琴美がお風呂から上がって、ダイニングに入ってきた。
「え!!?どなた!?」
琴美がいち早く貴史先生に気づき、紡の方を見て尋ねた。
「え〜と、こちらは、神宮貴史先生で、能力の先生見たい。」
紡は、驚いてる2人に、紡が持っている情報をそのまま伝えた。
愛と琴美は、狐につままれたような表情になりながら、智絵さんに誘導されるがままに、席に着いた。
「それじゃあいただきましょうか。」
「「いただきます!。」」
紡達にとっては、朝以来の食事だった。自分が空腹出ることすら忘れていた紡達は、食事のありがたさ、生きているありがたさを噛み締めながら、黙々と食べ続けた。
大体3分くらい沈黙が続いた後だろうか、貴史先生が唐突に話始めた。
「今日は大変な1日だったね。色々ありすぎて、まだ、混乱しているだろうが、これから毎日、みっちり私が能力の使い方を教えようと思っている。リビン再襲来までおよそ一ヶ月になんとか能力をある程度操れるぐらいまでになるだろう。じゃあ、食事が終わったら少しばかり今後の方針について話そうか。」
「はい。」
————————————
夕飯後、紡達は、客間に集まった。紡は、客間のいかにも重役が座りそうな椅子に座った。
「それじゃあ、今後の方針について話し合おう。まず初めに、君達に聞いておかなければならないことがある。君たちはどうして能力を学ぶんだい?」
「それは、愛する人を守りたいからです。」
そう紡が答えると、愛や琴美も頷き同意した。
「愛する人を守るためか……、それならば能力を学ぶのはやめた方がいい。」
「「え!!?」」
紡達は、予想外の質問に驚きを隠せなかった。
「どういう意味ですか?」
愛が、貴史先生に聞くと、貴史先生は、紡や愛、琴美の顔を見てからゆっくり話始めた。
「お主達は能力を学ぶ意義をしっかり認識した方がいい。現状、お主達は、能力保有者であるため、リビン神軍に追われる立場じゃ。そして、リビン神軍のトップはアレース様じゃ。これから、リビン神軍に立ち向かうということは、これがどういうことを意味するかわかるか?」
「アレース様と戦うということですか?」
「そうじゃ、もしリビン神軍の能力保有者を退けたとしても、最終的にアレース様と対峙することになる。そして、我々ではアレース様を倒すことはできない。なぜなら、始祖神である5柱の神は、永遠の魂を持つため、死なないのである。どんな傷でも一瞬で治ってしまう。そんな人智を超えた神と対峙した時、最終的に、我々は敗れ、そして愛する人も失うのじゃ。」
貴史先生は、紡達を見つめさらに続けた。
「愛する者を守りたいと理想を掲げた奴が、その理想を遂げられなかったとき、愛する人を目の前で殺されたとき、そいつがどうなるか分かるかい?そいつの心は壊れてしまうんだ。絶望し、後悔し、自分を憎み、壊れていく。」
「しかし、それでも自分は、自分の手に届く範囲で、愛する人を救いたいんです。」
紡は、貴史先生の話を聞いていられず、たまらず反論した。
「わしの言っていることが理解できていなかったのかね?特に、紡よ、お前が一番危ない。お前には今、リビンと言う絶対悪がいる。だから、両親を失った悲しみや、リビンと対峙するほどの力を持っていない自らの不甲斐なさを、リビンを憎むことでかき消すことができ、心の均衡を保っていられる。しかし、もし、今後、お前が愛する者を守るためにリビンと戦い、愛する者を失った時、お前はどうなると思う?確実に心が壊れてしまうぞ。」
「…………………。」
紡は何も反論できなかった。確かに、紡にもそんな予感がしていたのである。もし次に、愛する人を守れなかった時、自分は壊れてしまうだろうと。
「それじゃあ、私たちは、どう足掻こうとも死ぬ運命にあるということじゃないですか。私のお父さんやお母さんは死ぬためにこれから戦うんですか!?」
今度は、愛は、悲壮に犯された表情で、貴史先生に詰め寄った。
「そうじゃ、あやつらも、アレース様しかり、リビン神軍にも勝てないことは承知の上である。しかし、勝てなくても立ち向かい自らの職務を全うしなければならない、それが上に立つ者の使命でもある。そして、次の世代に希望を繋ぐのだ。次の世代とはお前達のことだよ。わしらはお主達を守り抜かなければならない義務がある。」
「そんな、死ぬのがわかっていて戦うなんて、そんなのあんまりです。しかも、私たちには、愛する人のために能力を使うなと言いながら、あなた達は、私達のために能力を使うんですか?」
「大人が子どもの心配をするのに理由があると思うか?もうお主ら能力保有者の存在は、リビン神軍にバレてしまった。あいつらは必ずお主らを捕まえにくる。だがな、運が良ければ、最終的にアレース様と対峙しても、能力を使って逃げ切れることができるかもしれない。さらに、私達が命を燃やせば、お主達の生存確率も上昇し、ヴァイサイトにいるリビンの子孫達の全滅は避けられるのだ。そのほんのわずかな望みにかけて、わしは今からお主達に、自分自身を守るために能力の使い方を教えるのじゃ。愛のご両親もそれを望んでいる。」
「そんな……。」
愛は、絶句しながら、貴史先生を見つめた。そして、琴美は、愛を手を握り、静かに現実を直視しようとしていた。
「もう、若い者が目の前で死んでいくところを、見たくないんじゃ。」
貴史先生がそういうと、沈黙が流れた。もはや紡達は、何も言えず、現状を受け入れるしかなかった。
「いいかい、お主達が直面している現実は、甘くない。そして、自分自身を守ることすら危うい敵に、立ち向かおうとしている。わしらはお主らを全力で守るがゆえ、お主らは自分が生き残ることだけを考えれば良い。忘れるでないぞ。それじゃあ、明日の朝7時から稽古を開始するから、指定の場所まで来るように。」
そういうと、貴史先生は、客間を後にして、愛の家を出て行った。
「あ!俺の能力がなんなのかを聞くの忘れた!あの人携帯とか持ってなさそうだよね、まあ明日聞けばいいか…」
紡達は、釈然としない思いを抱きながら、早朝の稽古に向け、早めに就寝した。
ゴッド・オブ・ボルネ〜神と人を紡ぐ者〜 根津白山 @OSBP
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