Ⅸ:home

「えっと…おはよう」

 きょとんとする芭乃に僕はそう返した。

 珍しく戸惑う芭乃の様子に新鮮さを感じながらも、現状の自分の行為は下手すれば通報されてもおかしくない行為であることに気づく。

 しかし、芭乃はすぐいつもの調子に戻って-

「とりあえずあがってく?」

 と言ってきた。

「え」

 今度は僕がきょとんとした。


<


「どうぞ」

 招かれるままにリビングに通された。

『ようこそ。お客様』

 と、測定器home nurse電子音声voiceが告げ、僕の体温や脈拍を測定scanningする。その記録はしっかり保存され、これのせいでこっそり恋人を自宅に迎えるのが難しくなったんだよな。

「座って。今お茶だすから」

「あ、ありがとう」

 示された椅子に座りすっくりと室内を見回す。

 ひと家族が過ごすには充分な広さだ。玄関へと通じる廊下に階段があったが、芭乃の部屋は二階なのかな。とほのかな期待を抱いてしまいながら部屋の様子を想像する。

 知り合う前なら、ハードカバーの少し堅苦しい小説が並ぶ本棚が目に付くいかにも文学系の部屋が浮かぶところだけど、ある程度、芭乃のことを見てきた今では、どんなものがあっても意外に思わないかもしれない。

 そんな掴みどころのない個性を、芭乃に感じ始めていた。それに対すると、この部屋living roomにはどうも個性に欠けるというか、誰かが常日頃から居るliving気配に乏しいように思えた。普段から家族が家にいることが少ないのだろうか?仕事のせいか?家庭のせいか?さすがにそこに探りを入れる気にはなれなかった。

「お待たせ」

 そこに、芭乃がお茶を持ってきた。

 気付くと同時に、温かい紅茶のいい香りが鼻孔を刺激する。

「ごめんね。お茶菓子とかは切らしてて」

「充分だよ。ありがとう」

 向かいに座った芭乃と共に、紅茶の入ったカップを口に運ぶ。優しい苦みを含んだ紅茶に身体も温まり、今日初めての落ち着きを持てた。

 しかし、ほどなくして、室内に漂う妙な沈黙に気づく。芭乃はマイペースに紅茶を口に運んでいるけど、それもこちらが話し出すのを待っているようにも見えて、それが余計に焦りを感じさせた。そうだ。よく考えれば、なぜ自分がここに来れたのか?ちゃんと説明すべき事だ。不安も警戒も抱かずに僕を招いてくれたというのも前向きに捉えれば、僕を信頼した上での対応とも言える。それにもしっかり応えなければならない。

 …と、頭の中ばかりが急いてしまい、まず言うべき第一声も口から出てこなかった。動揺が隠し切れなくなってきたところ…。

『♪~』

 突然の音楽classic

 測定器home nurse仕業配慮だった。

 室内に精神的な不調が見て取れる者がいた際に、自動autoでこのような対応を行う機能があったのを思い出した。

「ふふっ」

 と、芭乃が笑う。

 自分の動揺をばらされたようなものだった。恨めし気に測定器home nurseを一瞥した。

「急に家まで来といて今さら緊張してるの?」

「いや、それは…」

 その通りだが、思わずごまかした。我ながら見苦しい様だ。

「どう説明したものか困って…」

 ようやくまともな言葉が出てきた。

ここmy homeに来たこと?」

「うん。あ、後付けた訳じゃないぞ」

 怪しい弁明になってしまったが。

「分かってる。だからなおさら不思議なのよ」

 芭乃は優しく微笑んだ。

 そんな芭乃の態度に甘える形で、僕は昨夜見たdreamの話から今に至るまでを包み隠さずに話聞かせた。

 その際に、夢を書き留めたノートも広げていた。

 勢いとはいえ、ノートaskである証拠を誰かに見せたのは初めてのことだった。

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"セカイ"ヲ傍受した少女 Aruji-no @Aruji-no

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