Ⅷ:relive

 夢から覚めた僕を、測定器home nurseは良好な覚醒と称賛した。

 しかし、当の僕は未だに夢見心地のままだ。これほど鮮明に夢を覚えていることはこれまでなかったと思う。

 時刻は朝の6時。登校日weekdaysでもこの時間に起きたことはない。僕は机に座ると、置いてあるノートに鉛筆を走らせた。普段は、問いかけgraffitiのデザインを考えるのに使っている代物だが、今描いているのは問いgraffitiではなく記憶dreamの方だ。人物を描くのは苦手だけど、覚えている内に形にしておきたかった。

 測定器home nurseが朝食推奨時間を告げた頃、鮮明だった夢はやはり夢らしくもやの中に消えかけていたけれど、何とかそれは形になった。

 夢の君daydream

 芭乃ではない、芭乃のような誰か。

 ほんと、誰なんだろうか。


 ∧


 居ても立っても居られない。

 とは、こういう感覚なのだろうか?

 僕は休日holidayにも関わらず、学校schoolの前にいた。

 当然休みholidayなので、門は閉まり静寂に満ちている。

 でも、あの時夢で感じたような静けさとは違う。時が止まったかのような安らぎもなく、相変わらず流れに置き去りにされるかのような不安と焦りが宿る。まぁ、その不安の原因は思わず持ち出してしまったアイディアノートaskである証拠のせいでもあるかもしれないけど。

 僕は改めて正門からの景色を眺める。飽き飽きしているはずの光景も今は少し違う印象だった。過去に戻ってきたような感じなのかも。

「…こっち。だったよな」

 僕は微かに遺る夢の景色dreamと今いる現実realを重ね合わせる。

 そして、夢の君daydreamが歩いて行った方を見る。

 …僕は何をしてるんだ?

 夢を追いかける気なのか?


 ∧


 夢の、もしくは記憶の追跡は、無事に終わった。

 あくまでぼやけた記憶が正しかったのであればだけど。

 もちろん、道すがらに半身のタワーマンションも支えを失った電線群も目にすることは無く、今僕の目の前には一般的な戸建ての家homeがあるだけ。

 もちろんmossには覆われていないが、見た目からしてこの家であるのは間違いないはず。

 でも、夢に追いついたはいいものの。

 ここからどうしよう…。

 --

 音が聴こえた。

 目の前から。

 見ると、一般的な家homeのドアが開かれようとしていた。ゆっくりとドアが僕らの方へと開いていき、その奥に一人の人影が見えて-

「え?」

「…おはよう」

 ドアの向こうから、夢ではない方real芭乃が出てきた。

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