Ⅶ:daydream

『お、おはよう』

 我ながら間の抜けた反応である。

 声に出したつもりだが、自分の声が内側から聴こえてきたような感覚があった。これが夢だからだろうか?しかし、夢の君daydreamには聴こえたのか、馴染み始めてきたあの笑みを浮かべてくれた。そして、夢の君daydreamは僕を導くような視線を送り、学校schoolの外へと歩き始めた。戸惑いながらもそれに付いていく僕。

 正門だった場所を抜けると、夢の君daydreamは前とは違う方向へ歩き始めた。僕の家とも真逆の知らない地区の方だ。もっとも、全部がmossに覆われた今では知ってる場所かどうかも判別はできないけど。

 夢の君daydreamは、時折振り返ってはささやかな笑みを見せていた。僕は何度か話かけようとするけれど、頭と口がうまく通じ合ってないような奇妙な感覚が邪魔をしていて、ほどなくして諦めた。

 ふと、足を止めた夢の君daydreamは、空の方を指差した。

「おぉ」

 その先を見た僕の口から、出そうとして出せなかった声を漏らしていた。

 そこには、mossに覆われたタワーマンションがそびえていた。

 しかし、地面からちょうど半分ぐらいまでの階層がない。しかし、上だけを見れば何事もなくそびえているような佇まいであり、それは浮いているというよりも、マンション自体が半身を失くしていることに気づいていないような印象がした。

 クスッ。という笑い声が聴こえたような気がして、僕は我に返った。見ると夢の君daydreamが僕を見ながら笑っている。そんなに呆けた表情でもしてたのだろうか?

 夢の君daydreamは満足気に振り返ると、再び歩き出した。僕も空に置き去りになったマンションを横目に再びそれに続いた。

 今のがある種の転換となったのか。

 僕らが進むこの道にも、不自然と呼べるものが当然の存在のように居座っていた。空の手前に幾重にも電線が張り巡っているが、それを束ねるための電柱がひとつもなく、巨大なクモの巣を思わせている。

 公園の広場にある噴水からは水は流れておらず、代わりに巨大な水球がその上で音もなく揺らめき漂っている。

 真っ直ぐ進んでいた夢の君daydreamが、横に逸れたと思えば、この先の道がくっきりと失くなっていた。まるで、ケーキを切り分けた後のような、不自然な断崖が広がっており、底には光の届かない暗闇ではなく、上と同じ蒼い空が広がり下へと伸びる断面もその中に溶けていた。

 矛盾と消失に満ちた探訪は、夢の君daydreamが再び足を止めたところで終わりを迎えた。そこも、例のごとくmossに覆われていたが、ごく普通の大きさの家であることはわかった。

 君の家?

 と、僕は声にならない声で聞くが、夢の君daydreamは肯定とも否定とも取れない反応をするだけだった。

--

 音が聴こえた。

 ここに来て、一番くっきりとした響きが耳に入った。

 見ると、mossに覆われたドアが開かれようとしていた。ゆっくりとドアが僕らの方へと開いていき、その奥に一人の人影があることに気がついた時。

 僕は目を覚ました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る