最終話 愛花とみんな

愛花いとはなちゃんと撫子なでこちゃん! 改めておめでと~!」

「どうも~」

「イエーイ」

 お祝いされるのも照れくさいものだなと、私芥川愛花あくたがわいとはなは感じていた。

 今は、金曜日の夜。いつものシェアハウスの面々に加えて、先ほど挨拶をしたあずさ先生も巻き込んでの祝賀会を開催していた。

 開催理由は、私の読み切り漫画が完成したこと、撫子の就職が決まったことのふたつのお祝いだ。

 私達の目の前には、ホットプレートとその上で美味しそうな音を奏でる肉たち。

「「肉じゃー! 食うぞー!」

 あからさまにテンションがおかしいひばり。確かに肉は嬉しいが、そんなにか……?

「ん~! やっぱりタンには、塩やな!」

「お姉ちゃん、お肉もいいけど野菜もちゃんと食べるんだよ?」

 親子みたいな会話をする幸音ゆきねちゃんと福乃さちのちゃん。妹の福乃ちゃんが野菜をすすめているお母さん役なあたり、なんともこの姉妹らしいというか何というか。

「へー、こっちのお酒もなかなかイケるね、撫子ちゃん」

「そうでしょう、梓さん。ささ、もう一杯……」

 こちらはこちらで、平常運転の撫子だった。梓先生は、お酒は強いわけじゃないんだからほどほどにね?

 っと、周りばかり見てないで私も肉を楽しもうと。そうして、自分の皿を見てみると。

「……ねぇ、ひばり。何? この肉の山は」

「いや、愛花ならこれくらい食うかなー、って」

「私、フードファイターじゃないんだけど」

 そりゃあ、食べるのは好きだけどさ。それに今は、その、お腹が……。

「ちなみにいーちゃん。今日の肉は、梓先生がお取り寄せしてくれた国産和牛肉やで」

「いただきます」

「愛花さん……」

 なんか福乃ちゃんの憐みの視線を感じる。そして幸音ちゃんは、やってやったみたいに思っているんだろうな。だって和牛とか言われると、ね?

「いいんじゃない? お祝いですもの、大いに食べて飲んでするべきよ。ねぇ、梓さん?」

「そうそう。撫子ちゃんの言う通りだよー。特に愛花ちゃんと撫子ちゃんは、主役なんだし!」

 梓先生は、ニコニコしながらお肉を頬張ほおばる。でも、梓先生。多分、撫子は肉より酒ですよ。

「でも、本当にふたりともおめでとうだよー。と、言ってもまだまだこれからだけど」

「それでも、めでたいことには変わらないですよ、梓さん」

「ひーちゃん、その通りや。世の中には、スタートラインに立てない人も多いからな。なぁ、ふーちゃん」

「そうだね。先はまだまだ長いけど、今日くらいは楽しんでもバチは当たらないよ」

「なら、私はもっとお酒を楽しもうかしら。ほら、愛花ちゃんも飲んで飲んで」

「ちょ、撫子。私まだグラス空いてないから」

 ワイワイと酒宴しゅえんは続いていく。お酒はほどほどにしないと、とんでもないことやらかしそうだから、お肉メインで楽しませてもらおう。

「さて、ここで愛花ちゃんと撫子ちゃんにこれからの目標を聞いてみよー!」

 なんか顔が赤い梓先生が、突然声を上げた。梓先生の隣にいる撫子を見ると、なんかサムズアップしてきた。何がグーなんだよ、おい。

「んー、私は全ジャンルのゲームを作ってみたいわね。王道RPGからギャルゲーまでありとあらゆるものを」

 おお、お酒が入っている割にはまともな目標だ。

 なんて思っていると、みんなの視線が私に向く。これからの目標か……。

「やっぱり連載を持つことに作るわね」

「からの?」

 ……からの?

 声をした方を見ると、ひばりがサムズアップしていた。何がグーなんだよ、おい。

 みんなが期待を込めた目で私を見る。えーと、えーと……!

「連載を持って、みんなを回らないお寿司屋に連れていく!」

 なんか変なことを言ってしまった!

「お、じゃあ今のうちに高い店探しておこうぜ」

「ひーちゃんに賛成や。ふーちゃん、うちのスマホ取って」

「はいどーぞ。まったく、ほどほどにするんだよ?」

「あら、福乃ちゃん。こういう時は遠慮は不要よ? ねぇ梓さん」

「そうだねー、撫子ちゃん。せっかくなら思い出に残るような高いところにしないと」

 あれよあれよと話が盛り上がっていく。とりあえず、みんなの暴走を止めないと!

「コラ! 嬉々として高い店探すな! てかひばりが見てるのフレンチの店じゃん!」

 思わず、ため息が出てしまう。まったく、この人たちは……!

 でも、どこか楽しんでいる私もいる。

 私はこのシェアハウスに来て、本当によかったと思っている。

 このシェアハウスで、梓先生と漫画の話をしたり。

 このシェアハウスで、福乃ちゃんと一緒にみんなの行動に呆れたり。

 このシェアハウスで、幸音ちゃんのいたずらに驚いたり。

 このシェアハウスで、撫子に朝まで絡まれたり。

 このシェアハウスで、ひばりと騒ぎすぎて怒られたり。

 このシェアハウスで、みんなと出会えた。

 そのことを私は、一生忘れない。

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