4. 帰り道

 本当は気づかないふりをし続けたけれど、その存在には学校を出てすぐに気がついた。最初は野良猫かと思ったが、学校から3匹ほどずっとついてくるのだ。時々模様や色が変わったり、犬になったり鳥になったりしたが、つねに数はかわらずついてくる。


「気づいてるからね」


 振り向いて、目が合った三毛猫にそう言い放った。三毛猫は口をあんぐりと開けて、猫にはありえないぐらいに表情豊かに、『しまった!』と顔で語っていた。


「いや、ばれないと思うほうがおかしいでしょ」

「でも途中で姿も変えましたよ」

「努力は認めるけどさ、ずっとちらちら視界に入ってたからね」

「人間は案外視野が広いんですね。普段ほとんど見られることがないもんで知りませんでしたよ」

「次から気を付けやす」

「いや、むしろ次はないようにお願いしたいんだけど。昨日ヤグルマにもそうお願いしたのに」


 素知らぬ顔をしたりごまかしていた3匹は、あきらめて僕と並んで歩き始めた。まるまると太った灰色の猫と、細くてまだこどものような三毛猫と、耳が小さくしっぽの太い茶色の猫。猫屋敷を出入りしているイキモノはほとんど猫の姿を好んでいるけれど、そもそも現世の生物ではないので力があれば姿は変えられるらしい。つまりずっとこの3匹がついてきていたのだ。


「でも、私たちヤグルマさんに言われてきてますよ」

「そもそも、ヤグルマの姐さんが坊ちゃんを一人にするわけないじゃないっすか」

「そうですよ、この前なんて転んだ拍子に向こうに転がり込んで、常世と現世の間に穴をぶちあけたでしょう。一人で出歩けるわけないと思いますけど」

「まぁ、そのことは反省してる。もうふさがったかな」

「さぁ? あと一日ぐらいはかかるんじゃないでしょうかね」

「まだ、見張りに出された奴ら、戻ってきてやせんからね。今日あたりは交代要員出すって姐さん言ってやした」


 三毛は丁寧な割に、わりと見下した響きを感じる。灰色のはヤグルマの舎弟感がすごい。もう一匹は言葉を発さず、ひたすら二匹の話をうなずいて聞いている。

 この三匹は猫屋敷に出入りする中でも、言葉が話せる少数派なのでヤグルマが選んでつけてくれたのだろう。


「僕が電車に乗ってる間はどうしてたの」

「そりゃ、一緒に乗り込んでも問題ないでしょう。私たちは普通見えないんだから」


 あきらかに馬鹿にした感じで三毛がそう言ってきた。

 つい一昨日『穴をぶちあけた』のは事実で猫たちには迷惑をかけたので、なかなか強く言い返せない。悔しいので明日もついてくるようなら、自転車をかっ飛ばして置いてけぼりにしてやろう。


「学校ではどうしてたの、っていうか目立たなかったよね」

「当たり前っす。そのあたりはヤグルマの姐さんに強く言われてますから。あっしは情報収集して暸一さんとは離れてやした。他の奴らも別の何かに化けたり、離れたところから見守ったりと気をつけやした」

「まぁ、今時見える奴なんてほとんどいないんだから、大丈夫ですよ」

「でも、君たち今、ごく普通の猫として普通の人に見えると思うよ」


 またしても猫たちはぎょっとした顔をしてお互いの姿をじろじろ見ている。学校でやらかさなかったか、本当に不安だ。

 普段、猫屋敷でも家事などをしたりしてくれていたらしく、屋敷のイキモノたちは大体、実体がある状態が多い。どうも、猫屋敷周辺は門がある影響か生活しやすいらしく、実体を保つ程度の力は使いやすいらしい。

 ヤグルマが言うには、屋敷の猫たちはいわゆる猫又のように長生きして変化したものから、祖母が生きていたころに常世からこちらに来て住み着いたものと色々らしい。その分、実体をたもてないどころか、姿も変えられないようなイキモノもいて、ヤグルマ曰く力も能力もピンキリだとか。

 そんな猫たちも、門のある屋敷内は常世の空気も漂っているらしく弱いものでもある程度の力が使えるらしい。そんなわけで、屋敷内では物に直接触れられるように実体化しているらしい。

 屋敷内の家事ということなら触れられるように実体を保てばいいが、外にお使いに行くには誰にでも見えるのも肝心だから、屋敷に外に使いに出されるイキモノはかなり力の強いものらしい。

 正直、僕には違いがさっぱりわからない。見えるか否かどころか、実体があるかないかも関係なく、今の僕にはどんな状態のイキモノも普通に見えるし、普通に触れられるからだ。ヤグルマに相談したが、慣れればわかるでしょう、で終わってしまった。



 とにかく、普段から癖がついているせいか、三匹は帰り道はほとんど普通の犬や猫と変わらない状態だった。

 僕がイキモノか普通の生物か見分けがつきにくいのに、なぜわかるかというと途中で散歩中の親子が3匹に向かって手を振っていたからだ。


「ヤグルマに報告しておくからね」


 猫屋敷が見えてきたところでそう言うと、3匹は慌てたようにうろうろと僕の足元にまとわりつき始めたのだった。



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