2. 透の想い 新生活の決意2
「透さん、まずは組織についてもう一度さらっておきましょうか」
望月さんは、ため息を飲み込んだような顔でそう言った。
「すみません、本当に。そんなその、大事だったとは」
「これを機に、組織があれこれ言ってくるかもしれません、透さんは利用されないように踏ん張ってください」
「あれこれって」
「分かりませんが、どんな組織でも一枚岩ではないということです」
それはよく知っている。
母が生きていたころ、たまに母の手伝いで組織の仕事について行った。母としては子供を連れて行きたくなかったらしいのだが、僕の気配が有効で、イキモノとの殺し合いにならないと保証できる案件のときは手伝うことがあった。
あの時顔を合わせた渡し守。別の門を持つ由緒正しい血筋の人や、古い家柄の人たちは対立までいかなくても、個々の主張が強かった。小学生の僕にすらわかる協調性がない面倒くさい態度だったのだ。一致団結した組織であるはずがない。
「何よりも、透さんは暸一君を守りたいんですよね?」
その望月さんの言葉に、僕は急に顔に水をかけられたような衝撃を受けた。
たしかに、これからはあの厄介な人たちを相手にするのは僕なのだ。つい先日まではひとりでふらふらしていられたが、これからは暸一がいる。
イキモノから暸一を守る力はないかもしれないが、相手が人ならばやりようはいくらでもあるだろう。
目が覚めた想いだった。
「良い顔です」
望月さんがそう言った直後に、門の方からにぎやかな声が聞こえた。暸一と猫たちだ。今日はヤグルマではなく、別の猫が一緒だったはずだ。初めての場所で何かまずいことが起こらないように、暸一には内緒でついて行ってくれたのだが、ばれたようだ。
猫たちは僕と眼があうと、気まずそうにそっぽを向いて走り去ってしまった。
何をやらかしたんだ。
「望月さん、いらしてたんですね」
まだ着慣れていない制服だが、それでも急に大人になったように見える。
僕の子ではないが、親ばかになる気持ちがよく分かる。にやけそうになったのがばれていないか望月さんを見ると、なんだか様子がおかしかった。具合が悪いのかすこし顔が青ざめて見える。
「暸一君、入学おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
だが望月さんは、すぐに笑顔で暸一にそう言ってくれた。気のせいだったのかもしれない。
「このあと、予定はありますか?」
「いえ、特にないです。明日もまだ授業はないし」
「それなら、これから望月さんが組織について教えてくれるそうですので、君もいっしょにどうですか」
「いいですけど、叔父さんもですか?」
暸一はなんだか不思議そうな顔をしている、
「そうですよ」
「でも、叔父さんの所属している会社みたいなものですよね」
「まぁ、そうなりますね」
「でも、教わるんですか」
「はい」
暸一は呆れたように口を開いたがすぐに閉じて、うなずいた。何かおかしなことを言っただろうか。
「僕はまだその、組織で働くとか考えてないんですけど」
「将来どうするかは、ご自分で考えて決めてください。暸一君は力が強いし、色々な余波も大きいでしょうから、組織に所属しなくても無関係ではいられないと思います。なので今後のためにも知っておいたほうがいいと思いますよ」
望月さんが暸一の背中を押すように、そう言った。暸一は先ほどとは違い、しっかりした表情で望月さんにうなずき返している。
「すぐに着替えてきますので、是非お願いします」
暸一には組織のことはもちろんだが、何より自分の力の強さを自覚してほしい。その辺りも望月さんがどうにかしてくれるかもしれない。
振り返ると望月さんはすでに縁側から上がり、紙袋から持ってきたものを取り出して並べている。興味深げに猫たちが集まって見つめていた。
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