15. 長かった一日

 高校が決まった時、僕は大きな屋敷で苦手な叔父と二人の新生活は、静かで緊張感に満ちたものになると思っていた。その予想は今日、大きく覆ってしまった。

 にぎやかな日々になりそうだ。

 以前だったら、緊張感がないだけいいかな、ぐらいの気持ちだったと思う。でも今は不思議と楽しそうだとほんのわずかに期待している。こんなわずかな気持ちですら、我ながら新鮮に思うほど、今までの日々が心が平淡としていた。

 携帯が新着通知を知らせている。見ると、母からのメッセージだった。父が出勤前に僕と話そうとパソコンの前でずっと待っていたらしいが、時間になり家を出たらしい。

 僕はアメリカでやきもきしていただろう父に、叔父と知り合いとの夕食が盛り上がって時間を忘れていた、ごめんと素直に打ち込んで送信しようとしたとき、居間のほうから叔父の携帯の着信音が鳴っているのが聞こえた。


「珍しいな、私に電話がかかってくるなんて」

「すみません、父かもしれない。いつもの時間に連絡しなかったものだから」

「ああ、なるほど」


 叔父は面白そうに眼を細めて笑った。


「兄の相手は生まれた時からしてきましたから、任せてください」


 ほうじ茶の入った湯呑みをお盆の上に置き、叔父は部屋の中に戻っていった。

 猫たちは飽きたのか、ヤグルマを残してみんなどこかに歩いて行ってしまう。今日はお開きのようだ。


「私はまだまだ話し足りないんだけど、みんながまた明日にしようって。暸一にも気持ちを整理する時間が必要だって。ま、そう言われたら仕方ないわ。お風呂は沸いてるから、あなたはゆっくり入ってきたら。透とあなたのお父さんの電話はいつも長くかかるから」

「お風呂が沸いてるって、誰がそんな準備」

「誰だと思うわけ?」


 全くばかなんだから、そんなつぶやきが聞こえた気がするが、ヤグルマはすでにくるりと丸まって頭を隠してしまった。

 お風呂を勧められると、たしかに疲れている気がする。僕は電話中の叔父にジェスチャーと小声でお風呂いただきます、と伝えて着替えをとりに部屋に戻った。

 明日からどんな毎日になるのか、考えただけで苦笑してしまう。

 だが、不思議と今までの生活では感じたことがないほど、気持ちが軽くなっていた。

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