55話 白ブチ猫の最期
55,白ブチ猫の最期
二五日の晩も涼しいので一緒に寝る。
朝方、目が覚めるといない。
下に降りたらしく玄関のドアの前にいる。
居間に入れるとすぐに風呂場に行く。
洗面器に水をいれてやると音を立てて飲む。
でもミルクや餌は嫌がって食べない。
今日は特に口をきゅっと結んでいる。
いよいよ近いのかと思う。
すぐに玄関の方に行くので外に出たいのかと思い外に出すが
一歩を踏み出すのに時間がかかってよたよたしている。
昼に帰った時は椅子から降りてへたっている。
すぐに餌をふやかすが嫌がってテコでも口を開けない。
頑固である。
嫌がるものを無理にでも食べさせた方が良いのか、
やめた方がいいのかわからない。
どっちが白ブチ猫の為なのだろう。
無理にくちの中に入れないでと目が訴えている。
せめて抱っこしていてやろうと腕の中に入れるとしばらくして
逃げ出すように出て床にぐったりとして横になる。
いよいよダメなような気がしてもう一度抱くと
爪を立てて逃げ出したかと思うとぐたっと伸びてしまう。
仕方ないのでそのままの姿勢で頭だけ撫でている。
夕方の出かける時間になった。
もしかしたらこれが見納め化と思って後ろ髪をひかれながらも仕事に行く。
猫だから一人になりたいのかなと思う。
身体中で息をして苦しそう。
どうする事もしてやることも出来ない。
夜、戻ってきた頃にはもうてっきりダメかと覚悟をしながらドアを開ける。
寝かせたところに居ないので探すとミシンのある方の椅子の下にうずくまっていた。
とりあえず生きていた。良かった。
おしっこを側にあった雑巾の上にしてあった。
抱き上げると昼間よりも少しばかり元気な目をしている。
先にモモ子の散歩を簡単に済ませさっと風呂に入ってから
ミルクを嘗めさせふやかした餌を無理にくちに詰め込む。
これ以上は可哀想かなと思ってある程度でやめる。
でも明らかに栄養が足りない。
生命を維持できないと思いながらこれ以上口をこじ開けるのも痛々しい。
腕に抱き取るとフーフーと声をあげて息をしている。
身体がつらくてどうしていいかわからないという様子。
腕から抜け出して玄関の方に行く。
しばらくしてバタッと音がしたので覗きに行くとトイレのドアの前で横になっている。
抱っこをすると荒い息。苦しそう。
可哀想で見ていられない。
猫にとっては抱っこされるのも有難迷惑なのかもしれない。
バスタオルに体を包んで二階のベッドに連れて行って一緒に寝る。
せめて最期の時には傍にいてあげたいと思ったからである。
荒い息でフーフーとかアウーアウーとか苦しそうな声、
その切なそうな声といおうか息といおうか聞くに堪えられない。
これがこの小さな生き物から出るうめき声かと思うほどの声。
余程苦しいのだろう。
安楽死させてあげた方がいいのではないかと思う反面、
それをした後の自分の心が耐えられるかどうかわからない。
ただ私に出来るのは撫でてやる事だけである。
弱った猫にとっては私の手の重さも重いのかもしれない。
そのうち猫はすくっと立ち上がったかと思うともう何も見えないかも知れない目を見開いて
私の顔のあたりを横切ろうとする。
慌てて起き上がって通してあげる。
2,3歩ひょこひょこと歩いてベッドの下に倒れ込む。
苦しそう。
モモ子を部屋の外に出してドアを閉める。
しばらく撫でてやる。
数十分そうしていたかと思うとまた起き上がって箪笥の前に倒れ込む。
こんなに苦しそうにしているのになかなか息が切れて行かないのは可哀想。
いよいよかもしれないと私の直感。
半身を起こしてベッドの上から乗りだしなでてやる。
私に出来るのはそれぐらいしかない。
数分後パッと四肢を突っ張ったかと思うと首を後ろにのけ反らせて
何か戻すような声を出して首を振るような仕草。
ふとジーコの最期を思い出す。
あーあ逝ってしまったと思い撫でていると今度は体を腹部から波打たせている。
2,3度痙攣する。
これで楽になったのだろう。
苦しみから救われたのかもしれない。
無理矢理にミルクを飲ませてごめんなさい。
余計な苦痛を与えてしまったのかもしれない。
安らかに眠って下さい。
家に来てくれてありがとう。
こんど生まれ変わる時はもっと裕福な家の猫になりな。
26日、日曜 AM2:50 永眠。
どこの子うちの子ニャンコの子 田ノ倉 詩織 @momoko-to-mi
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