新・トロッコ問題
生田 内視郎
新・トロッコ問題
警察官になって、もしかしたらこういうことがあるかも知れない、と一般の人よりは心の準備はして来たつもりだった。
だけど、いざその場面に遭遇した時の俺は、自分が何をするべきか、さっぱり分からなくなってしまった。
──
「よせっ、銃を下ろせ!!」
俺は今、銃を片手に老人を人質に取った犯人と向かい合わせになっている。
「下ろせと言われて下ろす馬鹿がどこにいる」
確かにその通りだ、グゥの音も出ない。
しかし、俺の立場がそれを言わずにはいられなかった。
彼が人質に取っている老人は、彼の家族の仇だった。
その老人の運転する車が彼の妻と幼い娘を轢き殺したのだ。
だというのにその老人は牢に入れられることもなく、飄々と外に出かけたところを、彼に捕まり
今こんな状況になっている。
心情では勿論彼の味方に決まっている、出来れば見て見ぬふりをしてやりたいし、なんなら老人を痛めつけるのを手伝ってやりたい、とさえ思う。
だが、そんなことをしたら俺は確実に懲戒免職だ。相手は上級国民で、もしこの状況を見逃したらこの不況の最中、再就職もままらなくなる。
俺にも彼と同様、妻と子供がいるし、一時の正義感で大切な家族の生活を失う訳にはいかない。
こんな時、昔よく見た漫画やドラマの主人公なら何と言ったっけ?
復讐なんてしても殺された家族が悲しむだけだ、復讐に囚われるな、と人生でも説くか?
それともここは法律国家だから、裁判に任せろ、とでも言えば良いのか?
バカ言え、なら何で彼は何の不自由もなく外を出歩いてる。
この世界の法律なんざ、結局偉い奴が得をするように出来てるんだ。
皆、分かっているはずなのに自分が当事者になるまでそこから目を逸らして、あたかも法律は平等だなんて幻想に浸っている。
俺も含めて──
なぁ、俺はどうすればいい?
自分の良心に従って見ないふりをすれば良いのか
それとも、家族の為に彼を撃つべきなのか
ああ、出来れば俺もお昼のニュースなどで、おおこの犯人よくやったな、現代の忠臣蔵だ、と世間を賑わす一人でいたかった。
犯人が老人のこめかみに銃を突きつけた。
もう考える時間はない
俺は、犯人を「 」した。
新・トロッコ問題 生田 内視郎 @siranhito
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます