第19話 勇者の剣
俺様の拳と英雄マブの拳が炸裂した。
マブの拳はとてつもなく重たくて、まるで鉄そのもののようだった。
俺様の拳も負けていなくて、鉄を破壊しようとミシミシと音を立てた。
「ほう、やるなぁ、拳の天才と呼ばれた英雄マブをなめちゃーあかんぞ」
「俺様の体そのものが武器だ。その武器を破壊できるならやってみろ」
「ああやってみるさ、その拳が朽ち果てるまでな」
「なら俺様がお前の拳を破壊してやる」
拳と拳が何度も何度も炸裂して衝撃波を飛ばす。
辺り一面の建物が吹き飛ぶ。
ナナニアのようなバリアを使う事が出来ないので仕方がない。
ただ破壊している建物は全部が貴族の邸宅であった。
なんかラルガルシア王国で冒険者ギルドマスターと結託して貴族宅を破壊しまくった事が脳裏をよぎった。
一応英雄マブも元々は貴族なのだが、彼は戦う事に夢中で、自分たちの財産が破壊されている事に気付いていなかった。
「ふ、英雄として生まれてよかった。天使から肉体を授けられた時、なんとと喜んだものだ。この肉体が崩壊しても次の肉体を探せばいい、やってみよう、生前出来な力を【願望破壊】くっぐぐふふふふ」
英雄マブの全身に亀裂が走り始める。
体のあちこちから血液が噴水の如く吹き上がる。
それでも彼は地面に両足をついて、顔中の血管を浮かび上がらせている。
大きな爆発音、つまり英雄マブの体が引き締まった音だ。
「ふ、もって数分、お主と本当の格闘技とやらで魂を奮い立たせようぞ」
「ああ、いいぜ、おめーが、その気なら。俺様もその気だぜ」
2人の武人は立ち向かう。
ただ2人の視線を交差させ。
2人の心の波動を2人で感じ。
地面に右足が触れた瞬間。
決着はついていた。
「かは、嬉しいぞ、お主のその拳が心臓を貫いてくれた。ふ、また蘇りたいものだ。まぁ天界にでもいくさ」
「なぁ、あんた、本当はもっとつえーだろ」
「ふ、気づかれていたか、いつか、また相まみえようぞ、その時は敵ではないかもしれないがな」
英雄マブの体は消滅した。
どうやら貴族達が体を天使族に捧げて、かつての英雄貴族の自我を持ってこちらに呼び起こされるものと、かつての英雄貴族の自我がなく、普通の貴族そのものの場合があるようだ。
リーダーである英雄ガンドンは元々の貴族の意識がある為、こちらをゆっくりと遠くから分析している。
先ほど倒した英雄レクルンザは半分半分と言ったところだろう。
一方で今倒した相手は完全に英雄マブそのものであった。
ナナニアが戦っている2人がどうなのかは知らないが、まぁ心配はないだろうと思っている。
さて、最後のシメと行こう。
そこには悠然と構えている貴族のおっさんがいる。
彼は不適な笑みを浮かべている。
まるで仲間たちの死は当然だと言うように。
また天使族を呼ばれて英雄を召喚されたらやばいけど、それだけの力はないようだ。
この世界には昔から英雄が誕生している。
貴族だとしても貴族じゃないとしても。
それは無限の数だろう。
そんな大群に攻められたら人は倒されるしかないだろう。
だがそんな力を持っている人はこの世界にはいないようだ。
「貴様を倒すのは、英雄ガンドンであり、貴族のわしじゃ」
「どうやら同化したようだな」
「ちと英雄ガンドンを理解するのに手間どったがのう、あの魔族のババアもいい魔法を残してくれたものだ。体から力が漲るぞ」
「それは良かったな」
「空を見よ、星があるだろう、あそこに剣を一本突き刺して、今こちらに運ばせている」
「ちょ、お前はバカですかああああ」
「わしは死なぬ、なぜなら無敵だからなぁ、この国を亡ぼすつもりもない、やるのはお前が立て直そうとしているラルガルシア王国だ。はっはっは、どうだ一生懸命作ろうとしているものを破壊される気持ちは」
普通なら絶望にくれて、地面に膝を落とすのだろうけど。
「よし、いっちょやるか」
「なぜ、諦めぬのだ」
「あそこで必死に戦っている用心棒を見たらひとりほっぽりだす訳にはいかねーだろ」
そこでは何かにもがき苦しんでいるナナニアがいた。
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勇者と魔王の末裔ナナニア・ラッセル
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ナナニアは指揮棒を握りしめている英雄サルサルと向かい合っていた。
「知っていますか、音は世界を支配しています。音の無い場所なんてありえないのです。そこに音があれば、わたくしが指揮するだけなのです」
「あのうよく分からないのですが、体がうまく動かなくて」
「そうです。音とは鼓膜で感じますよね、音とは肌で感じますよね、音はあちこち鳴ってる。それを指揮すると、音であなたの動きを指揮者として動かす事が出来るのです」
すると首がない英雄レクルンザの死体が操り人形のように歩いてくる。
それは一種の恐怖そのものであった。
ナナニアも死体がやってくるとは思わなかったようだ。
「わくしの音は全てを操る。音がある場所はわたくしの世界。さぁ、あなたを自殺させましょう。わたくしはとてもやさしいのです」
「ぐうぐぐぐぐぐぐぐぐぐうっぐ」
「しつこいですねぇえ、遥か昔、わたくしはこれで一国を滅ぼした事があるのですよ、あなたは勇者と魔王の末裔ですよね、わたくし勇者も魔王も殺した事があるんですよ」
「なら先祖に誓ってあんたをぶちのめさないと」
「だから、自殺しなさいと言っているではありませんか、この指揮棒は音であなたを操るのです」
ナナニアは色々な事を考える。
鼓膜をつぶして、操られない方法も探したが、それは無理だ。
なぜなら聞いて操られているのではなく、超音波のようなもので、体の節々を操られるようだ。
ナナニアの脳味噌の中で、高速で計算が始まる。
今は耐え忍ぶだけが限界だ。
自ら体を動かす事は出来ず。
少しでも気を緩めれば、自分の心臓に剣が向かっていき自殺するだろう。
【まったくお嬢には疲れさせられるっす】
「勇者の剣、あなたに任せるわ、あなたは生き物じゃないから操られないのかも」
【そうなんすかね、そりゃよかったっす、肉体借りますよ】
「もちろんよ」
「先ほどから誰と話をしている」
「あら、いいじゃない、勇者と魔王の末裔でも秘密はつきものよ」
ナナニアはここに至り勇者の力を使う。
勇者の剣には自我がある。名前は勇者の剣であり、遥か先代から受け継がれた伝説の宝剣と呼ばれている。
勇者の剣には始まりの勇者の頃から受け継がれた技術がある。
その技術は勇者の剣に受け継がれている。
その技術を使うには体の所有権を渡す必要がある。
何かしらの原因で体が操られているなら、勇者の剣を発動することにより、操られた体をさらに操る事が出来る。
よって英雄サルサルの指揮棒での音操りは無効化される。
そこに立っていたのは、遥か昔から受け継がれる勇者の戦闘スタイル。
空気を止めた瞬間。
ごろっと何かが落ちた。
「はっははは、はやく、自殺し、あ、あれ、なんでお前はそんなに高い場所に」
「あら、気持ち悪い、もう死んでますよあなた」
「あえ」
それは一瞬、勇者の戦闘スタイル。
それは尋常じゃないくらいの力を使う。
だが勇者と魔王の末裔として訓練してきたナナニアには酷ではなかった。
ごく普通に呼吸をするようにだった。
【もう疲れたから眠るっす、ではでは】
「ありがとうね勇者の剣、さて、あいつはどうかしら」
ナナニアはゆっくりとピエロ・トッド・ニーアスが戦っている場所へと視線を変えたのであった。
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