第7話 冒険者ギルド改革

 かつて冒険者ギルドを囲む貴族の住宅街は、冒険者ギルドマスターの圧倒的な力でもって破壊尽くされた。

 

 普通なら瓦礫の山等が高く積み上がり、それを廃棄するだけでも結構なゴードがかかってしまう。


 しかし俺様のテレフォンブックのおかげで、瓦礫はデータに変換された。

 もともと持っていたデータと追加されたデータを合計的に見ると、現在のデータの残高は1兆データを越えているのだ。


 これをゴードに、つまりテレフォンブックから現金化した場合、1兆ゴードになる。


 これは貴族でも一握りの人物でしか到達しえない領域の額である。


「あらかた、掃除も終わったし、建物を建設してもらいたいのだが」


「はい、まずは風力発電を3個設置します。これは結構な高さになるので慎重に建設したい所ですが、何せ初めて建物を購入するので、問題が起こる可能性がありますがね」


「それは安心してくれ、その時は、こちらが応対しよう」


 長身のギルドマスターラガストは腕組みしてこちらを見守っている。

 少し距離をとっていたナナニアと隣にはテニーが立っている。


 彼女達はこちらを大きな瞳で見守ってくれている。


 俺様は3カ所を一般住宅と離しながら、3カ所とも別々になるように工夫してテレフォンブックから取り出した。


 なんとそれは四角い箱であった。

 大きさは手の平サイズでありながら、表面には風力発電の絵柄が張られている。


 俺様は慎重に三カ所へと四角い小さい箱を設置する事にした。


【3個の風力発電の箱を起動しますがよろしいでしょうか】


「ああ、テレフォンブックの声に従うよ」


【では起動します。少し離れてください】


 俺様はテレフォンブックの声と共に少し距離を取った。

 次の瞬間、小さな爆発音を響かせ、まるで地面から風力発電という建物がにゅきにょきと生えてくる。


 大きさは一般の住宅の3倍くらいであり、巨大な回転するプロペラが棒の上に設置されている。

 

【この世界には魔力が存在する為、適合魔力を用いる事で少しはなれば場所に電力を供給する事が出来ます。適合魔力の設定を行わなければ、ただ電力がたまるだけです】


「やりかたを教えてくれ」


【例えば冷蔵庫などを設置して使いたい場合は冷蔵庫の電力供給部分に風車の魔力データであるこのボールを設置する事によりボールを通して冷蔵庫に電力が供給されます】


「なるほど、これだな」


 風力発電の地面との設置部分に丸いボールがはめられている。

 そのボールを取り出すと、またボールが出現する。

 どうやら何個も繋げる事が出来るようだが。


【沢山の電力ボールを色々な機材に設置するのもいいですが、電力の支出と収入のバランスを考えましょう】


「つまり仕入れる電力より使用する電力が上回らなければいいのだろう?」


【その通りです。さすがと言っておきましょう】


 冒険者ギルドの後ろの倉庫が開いていたので、自転車型発電を10台設置した。


【例えば風力発電では足りなかったり、風力発電を起動させる為の風が無風であったりなどしたら、人の力で自転車をこぎ、電力を製造する為の自転車と言えます。これも電力供給ボールにより家電と接続する事が可能とされます。家電とは人が生活していく上で使用する電気を用いた家具の事です】


「長く説明を有難う」


 俺様はテレフォンブックに頭を下げつつも。


「その倉庫はあまり使わないから、さびれているだろう、テニーよあとで掃除してくれ」

「畏まりました。ラガストギルドマスター」


 長身のギルドマスターは的確に指示を出していた。


「では冷蔵庫を設置したいと思うのですが」

「ああ、それならこちらに来てくれ」


 俺様とナナニアとラガストギルドマスターとテニーが外から冒険者ギルドの中に入る事となった。


 俺様は道化師一筋で冒険者ギルドに入った事など無いに等しい。

 中にはいかめしい冒険者ばかりがいるのかと思ったら。

 意外と若い男性と女性が多くて、親しみのある爺さんもいたりした。


 他の種族であるエルフやドワーフが時たま見られたが、話しかけられる雰囲気ではない。


 そこを通り過ぎると、食堂に出た。

 そこではビールを飲んで賑わう冒険者達がいる。

 てっきりこのラルガルシア王国を捨てて別な国に行ったのだとばかり思っていた。


「彼らはこの国の事が好きなんだ。好きじゃない奴等は一人残らず別な国に行ってしまたけどなぁ、さて、ここだ」


 ラガストギルドマスターがしんみりと会話を始めようとしたら、即座に無駄話はしないと会話を中断した。


 そこは調理場と言っていいだろう、調理道具があらかた揃っており、多種多様なモンスターや果物や野菜や飲み物や調味料があり、2人の男女のコックさんでやりくりしているようだ。


 そこには食材が結構転がっているが。毎回コックさんが地下に食材を取りに行っている。


 それは非常にめんどくさいようで、まとめて地上まで持ってくるのだが。


「ああしてまとめて持ってくるのはいいんだが、調理する前に腐ってしまう時がある。そういう時はその素材を捨てるしかないんだ」


 ギルドマスターラガストは申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 大体の事情を察して、冷蔵庫を設置できる場所を見つけ、またテレフォンブックから四角い箱を取り出し、全部で20個設置した。


 そして起動すると、箱の中から白い大きな入れ物が出てくる。

 俺様もその冷蔵庫とやらを生で見るのは初めてであった。

  

 異世界人はその冷蔵庫を使用しで生活しているのだろう。


 供給電力ボールを冷蔵庫20個に接続すると。

 次の瞬間には電力が供給されていた。

 どうやら外では風が吹いており、それで回転して電力が作られたようだ。

 すぐに冷蔵庫は停止してしまう。


「おそらく電力がたりないのでしょう」

「なるほどな、次に行こう」


 次に案内された場所は冒険者ギルド受付カウンターであった。

 とても巨大な棚には無数の書類が固められている。

 種類ごとに分けられているようだが。


 俺様が書類フォルダーを1000個出現させると。

 

【自動フォルダリング機能を使いますか】


「それはどういうものだ」


【自動的に仕分ける機能の事です】


「どうします。ラガストギルドマスター、自動的にフォルダーに仕分けしてくれるそうですよ」


「ほう、それは興味深いな、やってみてくれ」


【承知しました】


「う、うそでしょ」


 ナナニアが驚きの声を上げている。

 それもそうだろう、俺様もびびって瞼を大きく見開いていた。


 空に舞う書類、もはやカウンターは書類の霧となっている。

 受付嬢達がパニックになるので。


「落ち着け、これは許可している」


 そう言ってくれたおかげで、パニックが引き起こされる事は無かった。

 フォルダーはまるで口を開いたカエルのようにぱくぱくと書類を食べて行く。

 そうしてフォルダリングした書類は800フォルダを使用する事になったのだ。

 200フォルダが余った訳だが、これは何かに利用できるのだろうと、ラガストギルドマスターは呟いていた。


「いやー色々と助かったよ、今日はもう帰っていいよ」


「こちらもすごいお金を稼がせてもらいました」


「気にしないでくれ、こちらはさらに効率がよくなる。これからがこの国の正念場だ。国は王様がいるからあるのではなく、民衆があるから国はある。ここは皆の国としての一歩だよ」


「そうですよね、それは俺様も思います」

「うん、あたしもそう思うわ」


 ナナニアが頷いていた。

 その横には受付嬢のテニーがにこりと慎ましく微笑んでいた。


 その日は何も無かったけど、いつも引きずっている右足がほんの少しだけ軽くなった気がした。

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