第8話 動き出す世界に道化の商人は……

 事実上ファグラス大陸を支配していたラルガルシア王国には従属国という国が存在していた。

 北にあるのがテネトス国で、南にあるのがナファク国、東にあるのがリーリルス国、西にあるのがナクスサル国でさらにその四方にはいくつかの小さな国がある。


 この4つの国が従属国としてラルガルシア王国に忠誠を誓っていた。

 しかし王様が国の財産を使い果たし、逃げるようにして珍しい石を持っていなくなったことで、ラルガルシア王国とその周辺の街や村ではパニックが起きている。


 今までくすぶっていた貴族達への怒りだ。

 殆どの貴族は王様と一緒に国を捨てた。今まで民衆にひどかった貴族は没落したり、逆に民衆に手厚かった貴族は守られたり。


 もはや秩序は崩壊していくに見えたが、そんな時に冒険者ギルドがラルガルシア王国の首都を再建すると宣言した。


 それがラガストギルドマスターだ。

 彼は謎の商人の技術と力により見たこともない道具を使用していると。

 そう宣伝されていた。


 まぁそれが俺様なんだけど。


「見る?」


 唐突に隣のベンチに座っているナナニアに情報誌を見せる。

 ラルガルシア王国には情報誌を売りさばく人々がいる。会社は3~5カ所ほどあるとされ、まとめて人々は【情報局】と呼んでいる。


「あたしはさっき見たからいいよ、でもどうすんの、4つの国が反旗を翻した訳でこの国に攻めてくるんじゃないの」


「いんや攻めてこないよ、だって王様いないし、暴徒だっているし」


「でも王様いない今だからこそ落せるのでは?」


「ナナニアよーく考えてごらん、既に滅んでいる国をまた滅ぼして乗っ取った所で、民衆は敵だよ? まぁ力でねじ伏せればいいんだけど、戦争が始まる前から建物は破壊されてるし、一番の利益は風車とかを奪える事だろうけど、使い方わからないだろうしね、そんな事はラガストギルドマスターが許さないだろうから破壊するだろうし」


「あなた、意外と策士ね」

「道化師はいつだって達観的さ、さて、商売を始めようか」


「そうね、元出が1兆ゴード以上だからね、凄すぎるわよ」

「金はある、後はこの国を作り直すだけだ」


「お、本腰?」

「俺様はいつだって本腰だ。昨日の夜にテレフォンブックの一覧を把握できるかとページを捲っては調べた。どうやらあれは無限にページがあるように魔法で加工されているから、全ての道具を把握する事は不可能だ」


「そんなにボリュームのある本なのね、あれは」

「それで何個か興味深いアイテム等を見つける事に成功した。そのうちの1つで1番最初にやった方がいいことは何だと思う?」


「さぁ、やっぱり軍事力かしら」

「違う、畑だよ、あと牧場、人は食べ物がないと生きていけないし、戦う力もない」

「なるほど、でも農民とか酪農家は国を捨ててないわよ」

「そうだ。もっとすごい事にさせる」


「凄い欲張りじゃない?」

「俺様は欲張りなんだ。それで俺様もお金を稼ぐ」


「ふーん、やる気まんまんだね」

「その通りだ。という事で畑を調べるぞ」


「了解だわ」


 ラルガルシア王国の畑は城下町を囲う城壁の外に耕されている。

 多種多様な野菜を育てているが、小麦、大麦、トウキビ、イモ類、キャベツやレタス等。

 果物はリンゴと葡萄だけであり、その他の果物は発見されていない。


 俺様も果物と言えばリンゴか葡萄だし、葡萄と大麦はお酒のエールとか葡萄酒になっている。


 イモ類がよく育てられると前のサーカス団の団長が教えてくれた。


 キャベツやレタスはよく虫がつくので困ったとされるので虫の少ない地区でしか生産されていない。


 小麦はパンだし、トウキビは色々と加工されたり、団子状にしたりする。

 

 酪農では牛と馬とニワトリだけで、牛の肉はとても高価な物とされる。

 馬は食べる風習がなく乗り物として育てられている。

 ニワトリは卵を産ませたり、時には絞めて肉として販売する。


 民衆の手に付きやすい肉はニワトリの肉とされる。


 俺様の知っている知識と、周辺にいる農家と酪農家の人々に質問した結果をまとめた。


「つまり数が少ないという事だな、まぁ場所によるのだと思うが」

「それもそうね」


 俺様とナナニアは地平線に広がっている畑を見据えていた。

 テレフォンブックの内容を思いだす。

 

【肥料】と呼ばれるアイテムだ。その肥料は動物のフンや落ち葉などをかき混ぜて、発酵させて作った物らしい、異世界では作物を植える前に土に混ぜたり、作物を植えた後も周囲に肥料をまいたりする。


 そうすると作物に栄養が回るらしい。


 俺様はこれが本当かは知らない、しかし風車や冷蔵庫の件やポーション等の例があるから、疑うのは止めていた。


【薬草バリア】と呼ばれるアイテムでは、作物の周囲に植える事で虫が作物に近づかなくなるという優れもの。薬草の嫌な臭いが虫を追い払うのだ。


【トマト、枝豆の種】これはこの世界では見つかっていない作物であり、異世界ではとても人気のある作物らしい。季節的には熱い所と表示されていたので、この地域なら問題ないと思った。


 トータルで500万データとされ、1兆円以上を持っている俺様には全然痛手では無かった。


 農家の長を探すのには少し手間取った。

 なぜならこの地平線に広がるどこかに農家の長がいるからだ。

 見つけた時農家の長は地面に大の字になってぐてーっとしていた。

 年齢的には老人で、種族はエルフ族のようだ。


 エルフ族は長命な生き物だ。

 数百年なんて当たり前に生きている。


 そんなエルフでもここまでしわくちゃになってると、年齢がとても気になる。


「ふむ、何用じゃ」


「あの、畑を改革してみませんか」

「ほう、おもろい事をいってくるのう、お姉ちゃん下着が見えるぞ」


「きゃあああ」

「ぐへえええ」


 老人の顔面を踏みつぶすナナニア。

 ナナニアよ畑にスカート姿で着たお前が悪いとは突っ込む事はしない。

 なぜなら第二の犠牲者になるからだ。


「すまぬな、お桃色かぎゃあああ」


 容赦なくナナニアは農家の長の顔面を踏みつぶしている。


「エロ爺、これにこりたら」

「すまぬ、わーってるって、さて、畑改革か、何をするんじゃ」


「この畑の収穫率を絶大に増やし、新しい作物を植えるのです」

「ほう、新しい作物か、この地域には適さない作物がエルフの領地にはあってな、この土地は土の質が悪い、本当に新しい作物を植えれるのかのう」


「はい、土はとてもよくなります」

「それはどのような思いで言っている」


「あなたはエルフ族ですスキルも伸びてらっしゃる。今ここに出すものを鑑定してみてください」

「ふむ、その自信はいいじゃろう」


 俺様は農家の長の目の前にテレフォンブックから肥料を取り出した。

 布の袋に包まれていて、とてつもなく重たい。


 農家の長はぎらりと鑑定しているわけだが。


「ってなんであたしを鑑定してんのよ」

「いやスリーサイズを、ごほがは、ぎゃああ、ぎがおがあご」


 案の定、農家の長はナナニアにぼこぼこにされ、地面に伸びていた。


「おふさげはここまでにして、これはとんでもない物じゃぞ、肥料とやらが何か知らんが、この世界の畑を根本から変えてしまうものじゃ」


「なぜ、俺様達は肥料に辿り着かなかったのか」

「バカだからじゃ」


「確かに、俺様達はバカなのかもしれません、支配とか欲とか戦争とか、生活の楽しみを忘れていたのかと」

「お主の分析力は素晴らしいものがあるのう、ふむ、いいじゃろう、手を組もう、畑改革じゃ」


 その日から俺様とナナニアと農家の長の畑改革が始まりを告げたのだ。




 

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