クロネコギター5

山崎 モケラ

クロネコギター5

今日もやってしまった。

何って母とのケンカである。



なんでこんなことになったんだっけ?

ゆっくりお風呂に浸かりながら、私は目を閉じて考えてみた。



そうだ。



私が英会話を習いたいと、言ったのがコトの発端だった。すると、母は嫌そうな顔をして思いっきりまたまた嫌そうなため息をつきながら、こう言ったのだ。



『あなたになんかどうせ無理よ』



そりゃそうかもしれないけど!

あたしには無理かもしれないけど!

あたしになんかには…。無理かも…。


でも、やりたかったんだもの。



英語を話せるようになって、英語の歌を彼の前でギター弾きながら歌いたかった。

それだけだったのにな。



なんで、あんなにムキになって喧嘩してしまったんだろう。

でも、あんな言い方ひどい。



私はお風呂のお湯で顔を洗いながら泣いた。



私には彼がいる。

その彼がギターを教えてくれた。

上手に弾けないけれど、音を鳴らしてるだけでも私は大満足で、ギターと一緒に歌えたらなーと憧れるのに時間はかからなかった。



そこで、英会話が出てきたのだ。

英語の発音がヘタクソな私はちゃんと英会話をできるようになりたいと思った。



でも、それも無理そうだ。



私の気持ちはもうくじけて、反対してまでもやる気にはなれなかった。



お風呂から出て、ベランダで深呼吸して夜風を浴びていると、足元にぬっと黒いものが現れた。



私はぎゃーっと言いそうになりながら息をのむと、それはクロネコだった。

大人のクロネコで、私の足にスリスリしてきた。



ノラ猫が撫でたことあるけれど、家のベランダで猫を撫でるのは初めてで、急に親近感が湧いた。

このクロネコを飼いたいと思った。



その時の私は行き場がない気がしたのだ。

このクロネコも行き場がないような気がして、仲間のような気持ちになっていた。



母に伝えた。『この猫飼おうと思う』と。

母は何も言わなかった。びっくりして言えなかったのかもしれない。



すんなりとこの猫はうちの子になった。

名前は、ブラッくんとつけた。



ブラッくんは頭のいい猫だった。

誰に甘えればいいのか知っていた。

すぐに強敵の母と仲良くなった。



私は、小さな声で英語の歌を歌うようになっていた。ボソボソと。誰にも聞かれないように。



家にブラッくんと2人だけの時に、私は気分が良くて下手なギターと合わせて大きな声で英語の歌を歌っていた。




母が帰ってきてるのも、気づかなかった。



すると、部屋をノックする音がして、私はビクン!と、飛び上がった。



母がニコニコして、ドアを開けた。

私は何を言われるのかと身構えてると。

『やっぱりあんたはできるじゃない。英会話学校なんか行かなくても、英語の歌、かっこよく歌えてるじゃない』と、言った。



そして、続けた。

『一緒にお茶にしよう』



私はポロポロ涙が止まらず、母の目の前でワンワン泣いた。



母は慌てて、お茶やら買ってきた洋菓子やら出して、私の背中をニコニコさすってくれた。



私は愛されてないと勝手に思っていて、勝手に憎んでいたけど。

全く勘違いだった。




その日の夕ご飯はいつもより入らなかった。

オヤツにたくさん母が持ってきたお菓子やらお茶やらを飲んだり食べたりしたので。




そして、この日からブラッくんがいなくなった。

私は外まで探しに行ったけど、どこにも居なくて。



部屋は閉まっていたはずなのに、不思議だと思うのだ。



母と今年は初めて紫陽花を見に行こうと思っている。

私の彼が私たちを連れて行ってくれるそうだ。


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