第31話一年越しの再開

「夢!」


病室のドアを勢いよく開けて、ベッドに横たわる夢にかけよる。息は上がっていて肩でぜえぜえと呼吸している。夢は目を見開いて驚いていた。


「ようやく思い出せたんだ。全部君のこともみんなのことも」


再開がどうしようもなく嬉しくて涙が溢れてきて、たった1年会ってないとは思えないほど心は乱されて震えている。気づけば僕は夢にハグをしていた。


「……ごめんなさい。あなたは誰?」

「……え?」


困惑した顔の夢から発せられた言葉は想像していたものとはあまりにもかけ離れていた


「ご説明します。大宮さん」


そう言ったのは夢の担当看護師の立石たていしさんというかただった。

立石さんに案内された部屋で夢にあったことを全部聞かされた。


「夢はどうして僕のことを忘れてしまったのでしょうか」

「端的に言えばストレスとショックです。星野さんにまだ記憶があったときにこれまでの話を聞きました。そして彼女は時間が経てば経つほどに心を壊してしまったのです。あなたを忘れるばかりかどんどんあなたとの日々を思い出してずっと泣いていました。それである日あなたのことだけを忘れてしまったのです。」

「そんな……」


ショックを受ける資格なんて本当はないのに呆れるな僕は


「けれど仕方ないことなんです。彼女があなたを忘れなければ完全に壊れていたかもしれません。忘れるというのは心を守るためにとった防衛本能なのですから。」

「記憶は戻りますか……」

「安心してください。きっと戻りますよ。あなたがずっとそばにいてあげれば。星野さんがあなたにしたように」


立石さんは優しく微笑んでそう言った。

その言葉に安堵した僕はお礼を言って病室を出ることにした。


「ああ、そうだ大宮さんこれを」


渡されたのはピンク色の手紙の封筒だった。

封は赤いハートのシールで止められていた。


「星野さんから君がもし来たらこれを渡してくれと頼まれてね。大丈夫中身は見てないから」

「ありがとうございます。」


そう言って僕は部屋をあとにして解放されている広場に出た。ベンチに座ってハートのシールをなるべく綺麗に剥がす。


***


私の大好きな人へ


ごめんね。ずっとそばにいるって言ったのに晴人のそばを離れて。この手紙がもし読まれてるなら凄い嬉しいな。だって私のことを思い出して、会いに来てくれたってことでしょ

でも、悲しくもあるな。せっかく晴人が思い出してくれたのに今度は私が忘れちゃったんだもん。私ね。本音を言うとね晴人が完全に私のことを忘れてからは辛かったんだ。片想いなんて比にならないくらい。それでも頑張ったんだよ。好きだから、もしかたら思い出してくれるかもってそれだけを希望に。

この手紙が読まれてるときの私は初恋相手の君をもう好きではないだろうけど、自信があるんだ。


晴人のことを忘れてもまた好きになるって


そんな気がするんだ。もし、晴人がまだ私のことを好きだったら私のことを諦めないでくれませんか?


あなたのことを大好きな夢より


***


大好きに決まってんだろ。諦めるわけないだろ。僕は夢が好きなんだから。

流れた涙をそのままにしてまた、夢のいる病室へと駆け足で向かうドアの前でもう一度深呼吸して開く。夢の前に立って僕は君にまた初めましての挨拶をする。

また1からだってやり直せる。君がまた好きになってくれるってそう言ってくれたから。

君が僕のことを思い出すまで、いやその先だってずっともう一度君が初恋をやり直せるように


「どうも初めまして大宮晴人です。」

「君なんだね。私の心のどこかにいる人は」


こうして僕と夢の短くも愛おしい日々が始まって終わっていく。


***

「もうすぐ始まるね」

「緊張してきた」

「そうだね私も緊張してる」


あの日から5年が経ってこれから僕らの結婚式が開かれようとしている。夢はあの日から

1ヶ月が過ぎだした頃からだんだんと思い出して、3ヶ月経った頃には全て思い出した。

それから高校を卒業して同じ大学に進学して

今年卒業する。この5年間はずっと幸せだった。もちろんこれからだって幸せに暮らしていけると思う。


「じゃあ私は先に行くね」


新婦が入場すればすぐに僕の番だ。新郎の入場という言葉が聞こえると両開きの大きなドアを開けて赤いベールの上をおぼつかない足で1歩、また1歩と歩いて行く。友達や家族が僕ら2人に視線を送る。ウェディング姿の夢はやっぱり輝いていて、そのせいで余計にドキドキする。誓いの言葉をたてて、夢の顔を隠す純白のベールを外して、誓いのキスをする。今までで1番緊張するキスだ。そして今までで1番幸せなキスだ。その後も式は平和に楽しく滞りなく終わりを迎えて、僕と夢は2人きりで少し休憩している。


「良かった。晴人と結婚できて」

「俺もだよ」

「最高に幸せだね」


夢からこぼれた涙を親指で拭ってキスをした


「これからも一生幸せにする」

「嬉しいよ。私も晴人を幸せにする」


2人揃って微笑んで、これからの幸せに思いをはせて、もう1度キスをした。


「これからずっと幸せでいようね」

「あぁもちろん」


大変だった高校生活も今では僕らの絆を愛を強固にした大切な日々に変わっていた。

だから、僕らは絶対にどんなことがあっても

やっていける。

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約束の初恋相手を僕はもう好きではない さかな @fog-sky

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