第30話1年後の流れ星
あの日から何かがあったはずの次の日から僕は記憶を忘れることはなかった。記憶を日々更新することもできるようになった。けれども忘れてた記憶は戻らなかった。
朝は愛衣が僕の元を尋ねて一緒に登校する。
学校では中村と長谷川さん、青山さんと友達になった。
慣れなかった日々も段々と受け入れて、新たらしい生活に適応していた。そうして2年生に進学して、みんなと同じクラスでまた毎日を過ごしていた。色んな行事をこなしてあっという間に1年が経とうとしていた。もう、すっかりと完治していた僕は空白の記憶のことなんて忘れていたんだ。だけどなんだかあの日だけは屋上に行きたくなったんだ。
***
「愛衣今日の夜暇?」
「うん。予定はないけどどうしたの?」
「今日さ天気もいいし夜になったら屋上に行かない?」
「いいよ。じゃあ22時に学校の前で集合」
待ち合わせの少し前に僕は学校についた。
もう、体が冷えるような寒い時期で白い息が暗い夜に現れては消えていく。
「ごめん。待った?」
「ううん。俺も今さっききたところ」
普通に考えて夜の学校に忍び込んで屋上に行くとかバレたらまずいよな。愛衣が何事もなく了解するものだからここまで何も思わなかったけど、バレたら怒られるよな。
「晴人大丈夫だよ。今日は滝沢先生に特別に許可もらってるから」
「なんだ。それなら先に言ってよ」
安心して門を通り、屋上への階段を音をたてて登る。夜の学校はテンション上がるけど怖い。幽霊とかでそうだな。屋上に登ると月と星が綺麗に輝いていた。
なんだろう……この既視感。どこかで、意識した瞬間に浮かんだ包みこむ声音。脳内で再生されたその声はずっと近くで聞いていた気がするのに頭にもやがかかって、探れば探ろうとするほど消えてしまいそうになる。
「どうしたの?大丈夫」
「どうして…おれ、、、泣いてんだろ」
不安そうに見つめる愛衣の顔が涙を通して歪んで見える。これはきっと僕じゃない僕の記憶の一部。涙は止まらないくせにこれが誰に向けてなのか僕はわからない。空はただ綺麗で答えを教えてはくれない。
涙を拭いて見上げると流れ星が空に流れた。
刹那、走馬灯のようにあの日の出来事が脳内で再生されていく。今度は声も顔もはっきりと思い出されていく。あの日一緒に星を眺めて、忘れたてほしくないなと潤んだ瞳でぼやいた。僕の大切な人。
「夢……」
「っ!」
愛衣はその名前に反応したかと思うと僕をただ見つめている。
「思い出したんだ……全部きっともう忘れることはない大切な人のこと……星川夢を」
「……」
愛衣は口を開こうとしない。喜ぶでも悲しむでもなく。顔を背けた。
何かを大事なことを忘れているきがする。
僕が愛衣と友達と過ごしてきたこの1年間。
楽しいことばかりだったはずの日々が僕の思考によって段々と暗く染め上げられる。
この1年間夢はどこにいたんだ。
寒いこの時期に汗が体中から流れる。この1年間僕は1度も夢と合っていない。あの日流れ星を見た日から。
「愛衣……夢は今どこにいるんだ」
声はずっと震えていた。頭によぎる最悪の結末がその口から発せられるのを恐れて。そんなはずはないと必死に頭で否定する。愛衣はゆっくりと口を開いて僕の疑問に答える。
「夢は生きてるよ」
「本当に……?」
「ただ、今は精神が不安定で病院に入院している」
「僕のせい」
「そうだよ」
愛衣の言葉ははっきりと重く。僕を強く刺す
けどそれは当然なんだ。ずっと長い間夢を苦しめて、自分は全部忘れて、この1年間を楽しんでいた。きっと愛衣は夢にお願いされてだからこうやって僕に付き添ってくれたんだ
今思えばみんなどこか本気で楽しんでいなくて、僕に合わせた笑顔だった。
「私は前に言ったけど、晴人のことがずっと好きだった。ずっと夢が羨ましかったよ。けどね1年間一緒にいて、辛かった。夢のことを忘れて楽しんでいる晴人の姿が。初恋の目で私を見ている晴人が許せなかった。私のことは忘れなかったのにどうして夢のことは忘れているのって言いたかった。夢を病ませた晴人が大切な人を傷つけたことを知らない晴人が嫌いになりそうだった。」
「ほんとにその通りだよ。俺はもう夢に合う資格なんてないんだよ。」
「そうじゃないでしょ。晴人が責任を取るべきなんだよ。全部思い出したんでしょ。今度は晴人が支えて立ち直らせてあげる番でしょ。もう逃げちゃだめでしょ」
「自信がないんだ……色んな人を傷つけたから」
「また、自分ばっかり!晴人は結局夢に会いに行って救えなかったら嫌なだけでしょ。」
「そんなこと……」
「あるよ!じゃあもう晴人はそれを言い訳にして夢から目を逸らすの。あなたが1番大切な人を無視するのそんなことしたら私は晴人と絶交する。そんなの晴人じゃないよ。私の好きだった晴人は誰よりも優しくて大切な人を助けようとするヒーローだったから好きになったんだよ。また、見せてよかっこいい姿を!」
ここまで言わせて、何してんだよ。僕はずっとそんなことを考えるタイプじゃないだろ。
あぁ女の子にこんなこと言わせるなんて最低だな僕は。でも巻き返すよ。夢のこと絶対に救うよ。好きだから。
「ごめん。愛衣、夢の病院教えてくれ」
「わかった……頑張ってね私の初恋の人」
「あぁ、任せろ」
ありがとう。僕の初恋の人。心の中でそう言って夢のいる病院に僕は走って向かった。
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