第29話覚悟の幸せ

「愛衣にお願いがあるの」

「急にどうしたの?」


放課後私は愛衣を校舎裏に呼び出した。

あるお願いをするために。きょとんとした顔の愛衣に私は心ととは反対の思いのことを吐き出した


「晴人のこと愛衣にお願いしたいの」


言葉に出したとたん辛い思いが溢れ出るように顔がビクッと震える。


「そんなのダメだよ!夢の体震えてる……今にも泣きそうじゃん」

「わかってよ!私はもう晴人にとっくに全部忘れられてるの」

「そんな……」

「私だって本当は傍に居たいの!だけど、だけど、晴人の負担になるから……毎朝晴人の絶望した顔させたくないの……」


ねぇ、私はどうして愛衣じゃないんだろ。晴人にずっと想われて、晴人を笑顔にさせられて、晴人に希望を与えられて、どうして私は何もできないどころか晴人を傷つける存在なのズルいよ……


「夢は諦めちゃうの……それがわずかな希望だっただけで」


心を心臓で突き刺された。耐えてきたはずの感情が流れ出るように手と声が愛衣に向かって出た。

愛衣を押し倒して心の叫びを全部ぶつけた。


「ふざけんな!何も知らないくせに。どれだけの覚悟で私がお願いしたとおもってるの!好きな人を、大切な人を渡すなんて嫌!それでも今の晴人に必要なのは愛衣なんだよ!わかってよ……お願いだから私の分まで……晴人を救ってよ……そのためだったらなんだってするから……」

「そんなの知らないよ!私だって、夢にずっと好きだった相手を取られて、それでも毎日友達やって嫌な自分を押し殺して、我慢して、我慢して今日までやってきたのに……最近やっとやっぱり夢しかいないんだなって思えてきたのにそんなこと言わないでよ……今でも晴人は好きだけど選ばれたのは夢であって私じゃないんだよ……」


愛衣の叫びと私の叫びは違った方向だけど、それでも1つの方向に向いていて、だから知らなかったことを知ることできっと進めるはずだから私の覚悟と愛衣の覚悟。どちらもただ怖いんだ。晴人に忘れられた人生か、晴人に思い出されたその瞬間が訪れる可能性が。


「今日晴人のところ行ってくる」

「え?いいの」

「夢の気持ち伝わったからそれでも夢にもう少しだけ晴人の近くにいてほしい」

「もう、そんなことできないよ。近くにいたらまた愛おしくなっちゃうから今日で最後にする」


私と愛衣の帰り道には誰一人同じ制服を着ている人はいなかった。愛衣はそのまま晴人の家に行くそうだ。私はチクリと……いや、そんなものじゃないほど胸を痛めて一人家に帰った。


***


夜になって私は晴人の元を訪れた。これで、最後にするから……これからはもう毎朝あんな顔させないから……愛衣が私の変わりを果たしてくれるから……………そんなの耐えられないよ。私の身勝手が許されるなら晴人がどれだけ忘れて愛衣に頼りたくなったって抱きしめていたい。


「私ダメだなぁ未練が残っちゃうよ」


崩れた顔をなんとか整えて、深呼吸して、それからインターホンを押した。すると晴人のお母さんが優しい顔で出迎えてくれた。


「晴人大丈夫ですか」

「えぇ今日は愛衣ちゃんが来てくれて安心してるみたい。」


やっぱり愛衣しかいないじゃん。ズルいよ。

恨めしいよ。羨ましいよ。


「晴人と少し出掛けてもいいですか」

「夢ちゃん大丈夫?最近ずっと元気ないでしょ」

「表情に出ちゃってましたかね」

「気持ちが全部わかってはあげられないけど無理はしなくていいからね。晴人のこと。心の痛みになれたらダメだよ」


心の痛み……確かにそうかもしれない。少しずつ慣れていった部分もあった。我慢して溢れ出す日もあったけど、感情を押し殺せることがあった。

このままじゃダメなんだ。少なくとも私にはこの先が残っているから


「ごめんなさい。お母さん私今日で晴人と別れるつもりなんです。別れたくはないけど、まだずっと好きだけど、それでも晴人に苦しんでほしくないから」


ぎゅっと私は晴人のお母さんに抱きしめられた。


「うん。もう無理しなくていいんだよ夢ちゃんはずっと晴人のためにありがとう。晴人を好きでいてくれて、晴人の恋人でいてくれてありがとう。もし、よりを戻したくなったらいつでも戻ってきていいからね」


きっと晴人のお母さんも辛いはずなのにそれでもありがとうって包んでくれて、やっぱり親子なんだな。やっと晴人のことで甘えられた気がした。

本当は晴人のためだけじゃなかった。傍に居たい強い気持ち壊れそうな心の叫びがかいりして、自分を追いつめていたから。離れることは辛いけどそれをいいよと包んでくれたから。

そうしよう……そうしよう……

やっぱり簡単には煮え切らない。

答えは晴人と会って決めよう。


「星川さんどうしたんですか」

「ちょっと付き合ってもらいたいの」

「こんな時間にですか」

「晴人のお母さんには許可もらってるから」

「わかりました。ちょっと待っててください」


数分待つと晴人は準備をすませて靴を履く。

私が最後に行きたいのは中学校。不法侵入になっちゃうからバレないように入って屋上へと向かった。屋上に登ると晴人は足を止めて、口をつぐんだ。


「晴人どうしたの」

「夢、ごめん……ごめん……辛い思いをさせて」

「え?」


今、夢って……


「記憶思い出したの」

「全部思い出した。でもいつまで続くかわからない」

「どうゆうこと」

「たまにあるんだよ。一瞬だけ思い出してまた全部消えてしまうことが」

「そんな……」

「夢これだけは伝えたい」

「何?」

「もう俺のこと忘れてくれ。ずっと辛い思いさせて彼氏失格だな。ほんとごめん」

「晴人は悪くない。辛いのは晴人でしょ」


もう、我慢できない。この少しだけの時間でも晴人を感じていたい。私は晴人に抱きついた。


「ほんとはずっと……辛かった。我慢してたんだよ……晴人の前で泣かないように」


晴人は私の頭を撫でてくれる。ずっと続いてほしいのにこんなにも幸せと感じたのはいつぶりだっけ。


「晴人ごめんね……私今日で最後にしようとしてた。愛衣に任せようとしてた。」

「いや、悪くないよ。ここまで耐えてたことが凄いってか申し訳ない。」

「今日はずっと肩を貸してくれない」

「もちろん」


最後の最後で思い出してくれて良かったよ。言葉を交わすことよりもこうやって晴人の存在をただ感じていたい。


「あぁ明日には忘れちゃうのかな」

「晴人……」


泣いてるんだ。晴人だって忘れたくないんだよね 


「忘れてほしくないな」


きっと晴人は忘れてしまう。それでも、自然と晴人の服を掴む力は強くなる。これから私は愛衣に任せるから好きとは言えない。それは晴人も感じているから口に出すことはない

あぁこれが最後の幸せかぁ好きだよやっぱり

楽しい時間はすぐに流れてもう12時を過ぎた。最後に流れた流れ星は悲しいくらいに綺麗だった


「帰ろっか」

「うん……」


晴人の手は温かくてもう忘れることはないと思う

あなたのことを忘れることはできないから今日のことを大切にするね。

それでも、それでも、それでも、それでも

やっぱり泣きたいよ。忘れないでって無理なお願いをしてすがりつきたい。でも晴人の笑顔をみたらそんなことできない。


晴人が忘れても私だけは忘れないから

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